医療情報サテライト

Vol.15 ヘリコバクターピロリ(ピロリ菌)とは? 第1回(全2回)

監修/伊藤慎芳先生
ヘリコバクターピロリ(ピロリ菌)とは?


「ヘリコバクターピロリ( Helicobacter pylori)」は、「ピロリ菌」としてよく紹介されていますので、一度はこの名前をお聞きになったことがあるのではないでしょうか? 1982年にウォーレンとマーシャルが人の胃からの培養に成功し、翌年発表された細菌です。

ところが、胃内は酸性の環境で細菌が生育しにくいという「常識」があったため、当初はなかなか理解が得られなかったようです。しかしその後急速に研究が進み、この菌は慢性的に胃炎を起こす病原菌として認識されるようになりました。

~ヘリコバクターピロリという名前はどういう意味ですか?~
ヘリコバクターピロリヘリコバクターというのは「らせん菌」という意味で、この菌の本体が細長い螺旋状をしていることから命名されています。またピロリというのは胃の出口側である「幽門部」を示しています。

~ヘリコバクターピロリの細菌としての特徴は?~
この菌は大きさが3~4ミクロン程度ですが、片側に数本の細長い鞭毛を持ち、これを素早く回転させることで胃粘膜表面を自在に動き回ることができます。

また、ウレアーゼという酵素を持っているため、尿素を分解し、アンモニアを生成する能力があります。 これにより胃酸を中和することができ、菌体自身を守ることができるようです。 またこの細菌を培養するときには、酸素が少なく二酸化炭素の多い「微好気性」という環境にしないと生育しにくいという特徴があります。

~日本の中高年の80%程度はピロリ菌感染者です~
感染していても普段は自覚症状がないことが多いため、感染していることを知らずにすごしている方が多いのが現状です。現在、日本の50歳以上の80%程度がこの菌に感染していますが、乳幼児では低率です。衛生環境などの悪い時代ではピロリ菌感染がきわめて高率で、その後急速に新たな感染が起こりにくくなってきていると推測されています。
年齢別のピロリ菌感染率(%)右記の調査は1992年には発表されたものですが、成人での感染率の変化が少ないようなので、約10年経過した現在では、40歳代の方々は現在50歳代になっているため、高率に感染している年代は現在ではおおよそ50歳以上であり、それより若い方々では半数以下程度かと予測されます。

小児、若年者はあまり感染率が高くなく、このまま推移すれば将来的には全体の感染者も減少していくと考えられています。

(Asaka et al:Gastroenterology 102:760,より改変引用)


ヘリコバクターピロリ(ピロリ菌)とは?
第1回
第2回
ヘリコバクターピロリ(ピロリ菌)とは?
感染の原因と病気の関連性について
伊藤慎芳先生プロフィール

伊藤 慎芳(いとう まさよし)先生プロフィール
伊藤 慎芳(いとう まさよし) 伊藤 慎芳(いとう まさよし)
医療法人社団あんしん会
四谷メディカルキューブ 内視鏡センター長
医学博士
日本内科学会認定内科専門医
日本消化器病学会専門医
日本消化器内視鏡学会認定指導医
日本肝臓病学会肝臓専門医
【略歴】
東北大学医学部卒業
関東逓信病院にて研修
アムステルダム医療センターにて研修
NTT東日本関東病院消化器内科医長
NTT東日本伊豆病院内科部長

【所属学会等】
日本消化器内視鏡学会(関東地方会評議員)
日本消化器病学会(関東支部評議員)
日本内科学会、日本内科専門医会、日本膵臓学会
日本肝臓学会、日本医学放射線学会、日本超音波学会
日本ヘリコバクター学会、日本バイオレオロジー学会