「ヘリコバクターピロリ(
Helicobacter pylori)」は、「ピロリ菌」としてよく紹介されていますので、一度はこの名前をお聞きになったことがあるのではないでしょうか? 1982年にウォーレンとマーシャルが人の胃からの培養に成功し、翌年発表された細菌です。
ところが、胃内は酸性の環境で細菌が生育しにくいという「常識」があったため、当初はなかなか理解が得られなかったようです。しかしその後急速に研究が進み、この菌は慢性的に胃炎を起こす病原菌として認識されるようになりました。
ヘリコバクターというのは「らせん菌」という意味で、この菌の本体が細長い螺旋状をしていることから命名されています。またピロリというのは胃の出口側である「幽門部」を示しています。
この菌は大きさが3~4ミクロン程度ですが、片側に数本の細長い鞭毛を持ち、これを素早く回転させることで胃粘膜表面を自在に動き回ることができます。
また、ウレアーゼという酵素を持っているため、尿素を分解し、アンモニアを生成する能力があります。 これにより胃酸を中和することができ、菌体自身を守ることができるようです。 またこの細菌を培養するときには、酸素が少なく二酸化炭素の多い「微好気性」という環境にしないと生育しにくいという特徴があります。
感染していても普段は自覚症状がないことが多いため、感染していることを知らずにすごしている方が多いのが現状です。現在、日本の50歳以上の80%程度がこの菌に感染していますが、乳幼児では低率です。衛生環境などの悪い時代ではピロリ菌感染がきわめて高率で、その後急速に新たな感染が起こりにくくなってきていると推測されています。
右記の調査は1992年には発表されたものですが、成人での感染率の変化が少ないようなので、約10年経過した現在では、40歳代の方々は現在50歳代になっているため、高率に感染している年代は現在ではおおよそ50歳以上であり、それより若い方々では半数以下程度かと予測されます。
小児、若年者はあまり感染率が高くなく、このまま推移すれば将来的には全体の感染者も減少していくと考えられています。
(Asaka et al:Gastroenterology 102:760,より改変引用)
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