健康予防医療コラム ~その他~
ダニング・クルーガー効果
ダニング・クルーガー効果という言葉に聞き覚えはありますか?コーネル大学の心理学者ダニングとその教え子のクルーガーの二人が発表したのでダニング・クルーガー効果と言います。物理、生物、政治、地理、の4領域の概念について知っているかどうか調査をし、そのなかに架空の概念を混ぜておくと、能力の低い人ほど、架空の概念を知っていると答える傾向があったという研究です。2000年にイグノーベル賞をとり、世界から注目されました。能力の低い人は知識と経験が乏しいために自分の能力不足を認識することも、他者がもつ能力を認識することも難しいということがあります。能力不足がわからないので、スキルを身につける努力や能力不足を補う勉強をしないので、悪循環に陥ってしまって向上しないというのです。
そこで思い出されるのがギリシャの哲学者ソクラテスの「無知の知」です。自分が無知であるということを知ることで成長の努力がはじまるという意味だとすると、ちょうどダニング・クルーガー効果の反対の現象を示しているように感じられます。では、根拠のない自信を持ち続けてしまう人と、無知の知を持てて向上できる人の違いは何なのでしょうか?もともと、人間の質に違いがあるのでしょうか?ソクラテスが問答法という方法を使ったことにその答えのヒントが有るような気がします。問答法によって「対話することで生まれてくる気づき」を利用したのではないでしょうか。一人でわかっているような気持ちになっていても、人と対話すると会話が食い違うとか、相手の質問に十分に答えられない自分を自覚させられることにもなるでしょう。そういう意味では、コミュニケーションは「己を知る手段」として大切だと思います。
例えば「ラジオを知っていますか」と言うと、ほとんどの人が「知っています」というでしょう。しかし、「ラジオの電子回路の回路図をかけますか」「電波が飛ぶ原理を説明できますか」という質問に応えられる人は少ないでしょう。リンゴやみかん、鉛筆などについてもそうでしょう。知識には浅い知識から深い知識までありますので、自分の知識の浅さ、深さをよくわかっていないと、知っている気になってしまっていることに気づかないことがあります。知識が浅いことがわかれば、深く知る努力もするかもしれませんし、自分の知識の程度では知っているとは言えないという判断も出てくるでしょう。
「実るほど頭を垂れる稲穂かな」という言葉を、優秀な人ほど謙虚であると理解することもできるでしょうが、もしかしたら、実際に優秀な人であればあるほど、自分が知らない部分がたくさんあることを自覚できていて、謙虚にならざるをえないという必然を意味していることなのかもしれません。そういえば、「まだまだ課題がたくさんあります」という優勝選手のインタビューや「まだ勉強しなければならないことがあります」という学者の記者会見を観たことがあります。もし、「自分はまだまだだな」と落ち込んでいる友人がいたら、「未来が待っているよ」と微笑みかけましょう。なぜなら、自分の課題が自覚されているだけ、可能性を秘めているのですから。心から期待を込めて応援してあげましょう。
監修:大多和 二郎 先生
掲載日:2017年08月01日