健康予防医療コラム ~その他~

心が豊かになる会話

~焦点は「相手の心」において~

 話していて「とても楽しかった」と感じるときにはどんな話をしているときでしょう。相手が自分の話に興味を持って耳を傾けてくれた時、自分の話に共感してくれて「そうだよねよくわかるよ」とじっくり聞いてもらった時、またはストーリーが面白くて興味深くてどんどん引き込まれていく時などいろいろだと思います。テレビやラジオでタレントさんが臨場感たっぷりの話をしてくれているときにも楽しいですね。ただ、放送の場合、対話というよりは「聞かせてもらう」というスタンスです。
  
 人は自分の話に耳を傾けてもらうことや、自分のことに興味を持ってくれる人が好きです。また一方で、表情や口調も豊かに上手に語られる生き生きとした話を聴くのも好きです。この2つは正反対のタイプのようですが実は共通点があります。それは「どちらもほぼ一方的だ」ということです。自分の話を聞いてもらって楽しい。また、楽しい話を聞かせてもらって楽しい。それはどちらも話し手と聞き手が決まっている会話ですから、やり取りを楽しんでいる会話とはちょっと違いますね。やり取りが楽しい会話では、お互いの心に色々なアイディアがわいてきます。そして思ってもみなかった結論が会話から飛び出すような、発想のキャッチボールが行われています。発言の相互の影響が生きて膨らんでいくのが「対話」です。
  
 では「相談事」はどうでしょう?悩みを相談するときも相談する人、相談される人というように、分けられるかもしれませんが、カウンセリングでは、そこを「対話」にしていくのです。相談では、「最近つらい事があって…、実は…」というように相談者が話し始めます。それだけだったら「独白」ですね。しかしカウンセリングでは、相槌を打ちながら聞いていたカウンセラーが問いかけます。「そうだったのですか…。大変な思いをいましたね。ところで、その状況で相手の人の言葉を聞いた時の気持ちを聞かせてもらえますか?」というように、相手の話を聞いたうえで、相談者の心の様子について質問したり、イメージや考えたことを確認したりしていきます。時には、「ちょっと想像してみてください…」というように、新しいイメージを引き出すような声掛けをしてみることもあります。カウンセリングでは、悩んでいる人の話をただ聞いているのではなく、実は心に焦点をあてた「心の対話」をしているのです。新聞記者の取材とちがって事実関係よりも「心の流れ」に焦点を当てて話していくと、相談者の心のなかに新たな発想や、イメージ、気分の変化などが起こってきます。カウンセラーは「こういうふうに考えなさい」と言っていないのですが、対話によって視点が広がったり、気持ちがほっとしたりという事が起こります。不思議ですね。
  
 人と雑談しているだけなのに、ワクワクしてくる会話ができたとしたら、それはお互いがお互いの心の感じ方や個性を尊重しあっているキャッチボール時だと思います。そんなときに人は心が豊かになるのかもしれません。「あの人と会って話したいな」という気持ちにさせてくれる人は人間的な魅力に溢れている人ですね。心の対話を心がけると、そんな雰囲気が相手に伝わるかもしれません。焦点は「相手の心」において、そっと耳を傾けてみる…、優しい雰囲気ですね。
  

監修:大多和 二郎 先生
掲載日:2016年11月14日

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