健康予防医療コラム ~その他~
離見の見
「離見の見」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。私はある人が口にしたので、「どういう意味ですか?」と質問して、世阿弥の言葉だと教えてもらいました。世阿弥は演劇や芸術についていろいろな言葉を残しています。一番有名なのが「初心忘るべからず」だと思います。 「離見の見」という言葉も世阿弥の残した演劇についての言葉ですが、「常に客席にいる観客の目で自分をみるように」という意味だそうです。演じるときに、観客にはどのように映っているかという芸人の大事な視点がおろそかにならないようにと言う指摘かと思います。演劇の道ではなくても、仕事や友人関係でも、自分が話をしているとき、相手が話をしている自分に対してどのように感じているのかということに気を配れているかというと、なかなか難しいことがあります。
プレゼンテーションの場で、時間や話す内容、言葉の使い方、スライドの順番などに気をとられていて、ふと気がつくと、話を聞いている人があくびをしていたり、うんざりした顔でこちらを見ているという経験をした人もいるかと思います。余裕がないときや自分が必死になっているときには、相手がどう受け取っているかということに注意を向けながら同時に話をすることが難しくなります。 話の上手な人は、必ず聞き手の反応や場の空気をつかんでいて、間合いを上手にとるので、聞き手は話しに引き込まれ、会場も盛り上がっていきます。その反対が、相手を無視した自慢話や一方的な趣味の話、若い人への説教話などです。聞き手の気持ちや理解の度合いに気を配っていない話し方は、話し手としては気持ちがよいかもしれませんが、聞き手にとっては話がわかりにくかったり、興味をもてなかったりします。自分の姿が相手の心にどう映っているのかという関係性に常に注意を配って話すことは、日常の人間関係でいつも出来るかというと難しいかもしれません。しかし、ちょっと視点を変えて考えれば「相手の気持ちになって人と関わっていく」ということですので、「気がついたら時々自分を見るようにする」ということでも、随分違ってくると思います。名人の境地に至らないまでも、日常生活で目の前の人を思う心をもつだけで、一歩一歩前進していくような気がします。初心忘るべからず・・・ですね。
監修:大多和 二郎 先生
掲載日:2015年03月01日