健康予防医療コラム ~休養・心の健康~
こころの壁
人はだれでも、「自分はこういう人間だ」というイメージ、つまり「自己イメージ(=自己概念)」をもっています。言い換えると、自分で思っている「自分らしさ」です。
そして、まわりの人から思われている自分と一致しているときも、一致していないこともあります。まわりから強い人だといわれている人でも、本人は臆病と感じていることがあります。
たとえば、「自分はいい人である」という自己概念を強く持っている人は、人に与えている迷惑に鈍感になりがちです。「自分は尊敬されている」という自己概念を強く持っている人は、相手のうんざりしている態度に鈍感になりがちです。そして、明らかに「侮辱されている」「嫌われている」という態度にであうと、相手を攻撃したり、無視したりして、相手の存在を否定することで、自己概念を守ろうとします。
「自分はほどほどにいい人である」「部下から尊敬されている」「有能である」という自己概念を持っている人が、それにあわない相手の態度や発言を理解できなかったり、自分の都合のよい意味に取ってしまうということは、心理学の分野でも指摘されていることです。人は、自分の意識で考えた「自己概念(自分らしさ)」を守ろうとします。
それをやりつづけていると、自己概念は守れるかも知れませんが、対人関係での気づきや、自己の精神的な成長は望めなくなります。発展や成長と言うことは、常に「問題点」を見つめ、「それを乗り越える努力」によって成り立っているからです。
自己概念を守ろうとして、都合のよい認識をする傾向があることは、人の心の性質ですから、完全になくすことはできませんが、成長に向かうためのコツというものはあります。それは、「自分自身の心と対話する習慣」をもつということです。こころのフィルターが何をふるいにかけているかを知ることで、フィルターにかけられてしまった「自己概念にあわない」体験や感覚を拾い上げることができます。
「この程度のことでは動揺しないよ!」と意識では思っているのに、手に汗が出て、足がガタガタふるえていたら、こころは「動揺している」のです。本当の自分のこころは
「筋肉の緊張、汗、声の出方、表情、視線、姿勢」などの身体動作、感覚によく出ます。
深呼吸して、目をつぶって身の回りの誰かをこころに描いてください。そのときの身体の感覚を感じてみてください。肩に力が入っていたり、喉が詰まる感じがあったら、その人をあなたの心は苦手に思っているのかも知れません。 時々、からだとの対話で、こころのフィルターの向こうを感じ取り、こころの壁をチェックしてみましょう。
監修:大多和 二郎 先生
掲載日:2006年10月01日