[悔いのない介護(3)]親の人生を穏やかに見送るために子にできること

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[悔いのない介護(3)]親の人生を穏やかに見送るために子にできること

こんにちは、セコムの武石(たけいし)です。

読者の体験談から「悔いのない介護」のヒントを紹介しています。今回はその最終話。

介護を続けるなかで、少しずつ衰えていく姿をそばで見るのは、つらいものです。
病状が悪化して意思表示ができない状態になったら、「何か言い残したことがあるのではないか」「もっといろいろな話をしておけばよかった」とさらにつらい気持ちになるでしょう。

父親の介護を担う読者Aさん。
病気の進行により、コミュニケーションが難しくなってきたそうです。

人生の終盤を穏やかに見送るために何ができるのか。
A さん父娘のエピソードから、そのヒントを探していきましょう。

【あわせて読みたい!シリーズ「悔いのない介護のために」】
(1)「この先、どうしたいか?」を話し合うには?
(2)介護家族の「心の支え」をつくるには?

● 今ならまだ「ありがとう」を伝えられる
緩和ケアに対応してくれる医療介護施設への入居を選択したAさんたち。
意識が低下して会話ができないことが増えてきたものの、Aさんは枕元で語りかけ続けているそうです。

「ありがとうをちゃんと伝えようと思って。
冬、父は仕事前に毎日、雪かきをしてくれていたこと、車で私を学校まで送ってくれたこと、私が困ったときに父が言ってくれた言葉、子どものころの記憶を思いつくままにあれこれ話して、『あのときは、ありがとう』と伝えています。

父は目も開けられないこともありますが、あるとき私が『大変だったでしょう?』と聞いたら、ニコッと笑って『楽しかったよ』と言ったのです。

そのひと言に、父の人生が集約されている気がして。
心配させたこともありますし、つらいこともたくさんあったはずなのですが、それも含めて『良い人生だった』と言ってくれているようで、私も救われたような気持ちになりました」。

父と娘のかけがえのない時間がそこにはあるのだろうと思います。
親がしてくれたことに、あらためて感謝の気持ちを伝える機会は、なかなかないものです。
照れくさくもありますね。

それでも「ありがとう」を伝えておくこと。
子から親への「ありがとう」が、つらかったことのすべてを帳消しにしてくれるのではないでしょうか。
人生の記憶を幸せで穏やかな気持ちで満たし、残される自分の救いにもなります。
悔いなく見送るために、残される側が伝えておくべきは、感謝だけなのかもしれません。


● 語らなくなった父が残した言葉
コミュニケーションが難しくなってきてからも、読者Aさんを支えてくれたものがあると言います。
それは蔵書です。

「父が施設に入居する前、まだ歩けるときに自分で買い求めてきた本がたくさんあります。
ビジネス書や人生指南のようなジャンルの本がほとんどです。
ほとんど読まれておらず、まっさらな状態なのですが、背表紙を眺めていると、父が私に語りかけてくるようで。
『迷ったら〇〇しなさい』とか『子どもを叱るなら××』みたいなタイトルが並んでいて、まるで父の言葉を聞いているみたいな気分になります。
父は自分のためではなく、私にあてて購入していたのだと思います」。

蔵書は、自分へのメッセージだと感じたという読者Aさん。
タイトルが気になってふと本を開くとまさに今、欲しかった言葉が目に留まり、ハッとすることも多いそうです。
語りあうことは難しくなってしまいましたが、父と娘のコミュニケーションは続いています。

書籍に限らず、「物」には、選んだ人の考え方や価値観が込められているものです。
そこから思いや、自分にしかわからないメッセージを受け取ることもあるでしょう。

言葉を交わすことができなくなっても、親が子を思う気持ちまで途切れるわけではありません。
「物」から、自分にあてられたメッセージを見つけることができるはずです。


● つらい介護生活で気持ちを支えるものは?
働く母でもある読者Aさん。
母親として、家族の日常生活を支えながら、仕事もがんばっています。
介護、家族、仕事、気持ちをどのように保っているのでしょうか。

「父との残された時間を思うと、つらくて心が折れそうになることもあります。
でも、父を見舞うだけの毎日だったら、もっとつらかったと思うのです。

父の娘である私、夫の妻である私、子どもの母である私、仕事を持つ社会人としての私。
いろいろな自分があることで、ひとつのことを考えすぎずに済んでいます。

うまくできなくてダメなときもあるし、気を張ってがんばることもある。
それぞれの場面で、ときどき弱音を吐きながら、気持ちを切り替えています。
そのおかげで、なんとか父と向きあうことができているのだと思います」。

介護とは関係ない場所に、自分の居場所があることが、救いになっていると読者Aさん。
このあんしん介護のススメでも、「介護離職は、できるだけしないほうが良い」とお伝えしてきました。

介護がすべて、介護だけの生活になると自分を追い詰めてしまいがちになります。
仕事を持っていない方は、自分のためだけに使う時間をつくったり、外に出て気分転換をしたりすることが大切です。

介護は、いつまで続くかわからないマラソンのようなもの。
だからこそ、自分の心身をケアする方法や、介護の現実から離れられる時間を、自分なりに持っておく必要があるのです。

自分を保つことができなければ、やさしい気持ちになれません。
そのせいで、介護や看取りに悔いを残してしまうこともあります。

どうしようもなくつらいときは、あんしん介護のススメに来てください。
ここにあるすべては、介護をがんばっている方に向けて、心を込めて書いてきました。
あなたの気持ちに寄り添う言葉が見つかることを願っています。


【あわせて読みたい!関連コラム】
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