助成研究者情報(結城美智子先生5)|安全安心な科学技術の振興:セコム科学技術振興財団

福島県立医科大学教授 結城美智子先生インタビュー「在宅がん患者の化学療法に伴う抗がん剤人的環境曝露防止のための地域安全システムの構築」(第2回)

トイレの度に採尿して冷凍するというのは、慣れていない人には難しそうですね。

 はい。そのため説明はできるだけ丁寧に行い、試験管に記録表と同じ番号を振るなど、よりわかりやすく使っていただけるよう工夫をしました。また、採尿に失敗しても患者さんが混乱しないよう、いつでも電話対応が可能な体制を作りました。

48時間という期間で実施されていましたが、どのような基準なのでしょうか。

 国際的に認められているガイドラインでは、シクロフォスファミドなどの抗がん剤を投与された患者の排泄物を扱う際には「(原則として)投与後48時間」の曝露予防が推奨されています。これに準じた期間を設定しました。

なるほど。しかし調査結果から、投与後3~5時間の間にピークがあり、その後は徐々に減っていきますが、48時間の時点ではゼロになっていません。

 シクロフォスファミドは投与量の3~36%が尿から排泄されるという報告があり、今回の調査では48時間で投与量の9~34%が排泄されているため、ほぼ一致しました。しかし代謝は個人差があるため、48時間という期間が本当に適切か否かの検証は、まだ十分に行われていません。今回、最低でも48時間継続して排泄されていることが明らかになったため、シクロフォスファミドの曝露予防の期間はもっと長くあるべきだと考えています。

拭き取り調査でも、28カ所のうち17カ所からシクロフォスファミドが検出されています。とくに注意すべき場所はありましたか。

 便座(0.04~8.35ng/㎠)とトイレの床(0.08~1.53ng/㎠)です。この2カ所は拭き取りサンプルの全てからシクロフォスファミドが検出されました。患者が排泄するシクロフォスファミドの量は時間の経過とともに減少していくものであり、排泄物そのものは看護師が処理したり、トイレで流されることにより無くなるものですが、便座や床に残留したシクロフォスファミドには48時間の枠は関係ありません。そのため残留物に対しては、より適切に対処していく必要があります。

抗がん剤に汚染されたままのトイレを同居家族が使用すると、48時間が経過していても、体内に取り込むリスクがあるということですか。

 そうです。そのリスクを明らかにするために行ったのが、同居家族への抗がん剤内部曝露リスク評価(Study D)です。これは3名のがん患者とその同居家族を対象に、Study Bと同じように化学療法後48時間の尿中の抗がん剤量の測定、および自宅環境の拭き取り調査を行いました。

その結果について、詳しく教えてください。

 患者とその同居家族の尿サンプル全てから、抗がん剤が検出されました。それぞれの総量は、患者1から170.10mg、同居家族1から152.0ngのシクロフォスファミドを検出。患者2から140.93mg、同居家族2から1.81mgのシクロフォスファミドを検出。患者3から16.9mg、同居家族3から421.0μgの5-FUを検出しました。
  がん化学療法を受けていない家族の尿から、患者に投与されたものと同じ抗がん剤が検出されたことにより、世界で初めて「患者の排泄物を介した同居家族への曝露がある」と証明することができました。

今までは在宅での曝露があるかどうか分からないまま、患者は病院から自宅に戻されていました。かなりの反響があったと思います。

 同居家族の曝露のリスクを考えている人はたくさんいたので、世界中の研究者から問い合わせがありました。
  しかも家族の尿に含まれている抗がん剤の量は、直接曝露のリスクがある看護師や薬剤師といった医療従事者の平均的な量よりも、はるかに多いのです。患者の排泄物を介した二次的内部曝露でここまで高い値が出たことは、予想外でした。
  下のグラフは、48時間における患者1および患者2とその家族の、尿中のシクロフォスファミド量をグラフにしたものです。