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岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 病態制御科学専攻 腫瘍制御学講座 免疫学分野 教授 鵜殿平一郎先生インタビュー 「メトホルミンによる腫瘍局所免疫疲弊解除に基づく癌免疫治療」(第2回)


がん細胞を攻撃するT細胞の活性化にはAP-1、NFAT、NFκBなどの転写因子が必要であり、そのうちNFATの活性化にはメトホルミンが有効である、という仮説が立ったのですね。ところで、エフェクター機能とは何でしょうか。

 がん細胞を破壊することと思ってもらえれば結構です。T細胞は、細胞外環境によって違う機能を持つものへと分化していきます。一度も抗原と接触したことがないT細胞を「ナイーブT細胞」と呼び、それらは「細胞障害性T細胞」と「メモリー(記憶)T細胞」に成熟していきます。さらにメモリーT細胞は、リンパ節にとどまり、抗原と出会うのを待つ「セントラルメモリーT細胞」と、細胞障害性T細胞とともに積極的にリンパ節を出て抗原を求めて移動する「エフェクターメモリーT細胞」に分化します。このエフェクターメモリーT細胞は、抗原を求めて皮膚や粘膜などの末梢組織を移動し、抗原に出会うと細胞障害性T細胞として感染細胞などを破壊します。

マウスによる抗腫瘍効果の再検証では、どのような結果が出ましたか。

 メトホルミンを投与したマウスのCD8TILのうち、エフェクターメモリータイプはNBDG(デオキシグルコースの蛍光標識体)の取り込みが亢進し、解糖系がさかんであることが読み取れました。つまり、免疫疲弊が解除され、がん細胞の破壊が持続しているということです。
 続いて、メトホルミン処理したOT-ICD8T細胞を担がんマウスに複数回養子移入(自分のリンパ球を体外培養したもの)しました。この実験では、CD8T細胞の分化、および機能に与えるメトホルミンの影響について、解糖系および、ミトコンドリア呼吸能の視点から解析することが目的でした。結果として、半分以上のマウスで腫瘍は拒絶されました。
 そこからさらにCD28抗体と比較し、T細胞解糖系にどのような変化、または特徴があるか確認しました。

CD8TILの解糖系亢進、CD8T細胞の分化のどちらにも、メトホルミンが有効に働くことが分かったということですね。

 そうです。In vitro(培養液内)においてCD8T細胞をCD3抗体、CD3/CD28抗体で刺激したところ、メトホルミン処理をしていないCD8T細胞に比べ、あらかじめメトホルミン処理をしたCD8T細胞は解糖系が著しく亢進すること、また酸素消費率の増加も明らかになりました。メトホルミンによってAMPKが活性化されるのは、前回ご説明したとおりです。メトホルミン処理をしたCD8T細胞のCD3抗体単独刺激による酸素消費率増加はAMPK阻害剤compoundCで抑制されますが、CD3/CD28抗体刺激による酸素消費率増加はまったく抑制されませんでした。このように、さまざまな視点から解糖系および、エネルギー代謝を刺激した結果から、新しい免疫学の概念が見えてきました。

メトホルミンのように「通常のTCR経路を使用しなくても、解糖系を使って代謝を活性化する」存在が今後も現れる可能性がある、という解釈でよろしいでしょうか。

 新しい存在が出てくるというよりは、新しい代謝システムの発見により免疫システムの考え方が変化する可能性がある、といったほうが正しいでしょう。前回、HSPと結合したがん特異的ペプチドが抗原となり、MHCクラス1によってT細胞に抗原提示される話をしました。これをクロスプライミングとよびます。T細胞がCD28/PI3Kを介せずに腫瘍を攻撃しているということは、つまり「免疫応答時の樹状細胞による抗原提示を省略しているのに、T細胞が抗原を認識できている」ことを意味します。この点については今後の研究でチェックポイント阻害剤との併用効果を視野にいれながら、明らかにしていきたいです。