助成研究者情報(戸川望先生6)|安全安心な科学技術の振興:セコム科学技術振興財団

早稲田大学大学院基幹理工学研究科情報理工学専攻 教授 戸川望先生インタビュー「LSIテスト設計技術に起因するICカードの脆弱性の解明とその対策手法の構築」(第2回)


話は変わりますが、こうした集積回路の仕組み自体の研究のほかにも、回路を自分で設計し、その応用先としてのアプリケーションを開発する、という研究をなさっているそうですね。

 はい、それが現在取り組んでいる2つ目の研究テーマです。主に、「超解像処理」と、「不揮発メモリ」という2つのシステムおよびアプリケーションの開発を行っています。

まずは「超解像処理」についてお聞かせください。

 テレビで昔の映像が映ると、地デジ以前に放映された番組は画質が悪いと感じませんか。それは、アナログ放送用の小さなサイズの画像をそのまま地デジ用の規格にあわせて大きく引き延ばしているためです。ですが、荒い画像であっても、それを複数枚集めて、一枚のとてもきめ細かい画像を作ることができる、というシステムを超解像処理と呼んでいます。
 しかしこのシステムをデジカメに搭載する場合、画像のきめ細かさを追求しすぎると、逆に、シャッターを押してから表示するまでの時間がかなり掛かるようになってしまいます。しかし消費者の多くは、画質の良さよりも、表示されるまでの時間の短さを欲するかもしれません。仮に0.1秒で写真を表示することへのニーズが高ければ、0.1秒で写真が出るように、手を抜く部分は抜かなければならないのです。たとえばポートレイトの場合、写真を見た人はたいてい、背景よりも、被写体である人物に注目しますよね。その場合は背景のが解像処理は手を抜き、人物だけ画質が良くなるようにしたならば、ユーザーが求める時間内に処理できるかもしれません。

システムの性能を上げるばかりではなく、実際に使われるシステムとなるとユーザーのニーズによって技術の高低を調節しなければならないのですね。

 その通りです。さきほどランダムオーダースキャンに関して、リスク回避とオーバーヘッドを天秤にかけ、どちらを優先してシステムを作るべきであるか、という話をしましたが、それと同じことです。高い技術を開発したからといって、それがそのまま消費者に還元できるとも限らないのです。

では次に「不揮発メモリ」についてお教えください。

 みなさんが使われているパソコンやスマートフォンもそうですが、ふつうシステムは使うときに電源を入れて、使わないときには電源をオフにするものです。日常的に使うものはそれでも構わないのですが、たとえばビルの夜間監視システムは、何かが起こった緊急事態にのみ働いて、平常時は電源オフでも構いません。ならば、不審者の侵入など、監視カメラに動きがあったときのみ、そこだけ電源がオンになれば、効率も上がりますよね。不揮発メモリなら電源がオフになってもデータが消えないため、こういったことが可能になるのです。

平常時はずっと電源オフの状態ですと、消費する電力もぐんと下がります。

 そうなのです。不揮発メモリを搭載した端末を山に設置したならば、50年ほど、電池交換やメンテナンスを必要なしに山火事の監視を行うことも可能です。それにくわえて、端末同士でお互いに通信しあい、緊急事態を伝言ゲームのように伝えることもできます。

さまざまな分野に応用できる可能性を持ったシステムですね。また、ほかにも地理に関する研究にも取り組まれているそうですが。

 近頃はスマートフォンの普及によって手軽に地図を持ち出せるようになり、以前よりもむしろ地図を見る機会が増えたのではないでしょうか。しかし、地図を見てもなお、都会の迷路のような道では迷ってしまいます。また、街中を歩いていても、GPSが指し示す現在地が間違っていることがありますし、ましてや地下や山の中などGPSが届かないような場所では、自分のおおまかな位置さえ知ることができません。そういった事態を防ぐために、「位置測位」と「地図の作成」という2つの研究課題に取り組んでおります。

まずは「位置測位」についてお聞かせください。

 スマートフォンなどで撮った風景画像によって、自分の位置を知ることができるというシステムです。「いまいる場所がどこかわからないうえにGPSも届かない」といった事態に陥ったときでも、自分のまわりの風景を撮れば、どこにいるのか知ることができる、というシステムを開発しています。ただ、技術的な課題もひじょうに多いです。たとえば、夏は茂っていた木の葉が、秋には紅葉し、冬には落ちてしまう、となると判別するのは難しいですし、季節だけでなく昼と夜でも景色はがらりと変わってしまいます。

さらに建物が建て替えられてしまっては、その場所であると断言できる証拠がなくなってしまいます。

 そちらはまだまだハードルが高いため、いまはもう少し簡易的な方法で位置を特定できるシステムの開発を進めています。あらかじめあらゆる場所にセンサーを設置しておいて、そのセンサーと携帯端末との距離で場所を特定しようというシステムです。センサーの数を増やすことできれば一番いいのですが、コスト的に難しいため、最低限の個数で、いかに正確に位置を知らせることができるか、という方向性で開発しています。

実用化を見据えた「効率のいいシステム」を開発されていると。また、これらのLSIの設計・応用といった研究とは別に、「地図情報システム」の開発をなさっているとお聞きしました。

 「地図情報システム」の開発が現在取り組んでいる3つめの研究テーマです。スマートウォッチやGoogle Glassといったひじょうに小さいディスプレイ上でも見やすい、必要な情報だけを抜き出した地図をその都度作成するシステムを開発しています。たんに地図を書くといっても難しく、デフォルメして書く場合ですと、狭い地域内でしたら問題ありませんが、そうして作った地図をいくつも貼り繋いでいくと途端に辻褄が合わなくなります。だからといって細かく正確な地図が分かりやすいかというと、そうとも言えません。ターミナル駅の複雑な構内図を見ても、自分がいまどこにいるのかパッとわかる人はほとんどいないでしょう。

たしかに新宿駅の構内図を見ても、複雑すぎてまったく分かりません。

 だからこそ、人間が見やすい、必要な情報のみを取り出した地図が必要なのです。となると、人間はものをどう認識するのか、という問題まで掘り下げなければいけません。たとえば、地図上に曲がり角があるとします。実際の道が90度に曲がっていれば、誰もが「これは曲がり角である」と認識できますが、45度以下の角度ですと、曲がり角だとは認識できないそうです。そのため、物理的には道が折れている所でも、認識できない程度の角度の場合は道なりに書いてしまったほうがかえって分かりやすいのです。

分かりやすい地図とはいっても、さまざまな問題を鑑みたうえではじめて作り上げることができるのですね。

 どちらもまだまだ課題は山積みですが、実用化まで持っていくことができたらと思っております。

では最後にセコム科学技術振興財団へのメッセージをお願いします。


 セコム科学技術振興財団さんほど、真の意味で研究者を助成してくださる機関はほかにないとおもいます。スキャンベース攻撃への対抗馬としてランダムオーダースキャンという方法を編み出したと先ほどお話ししましたが、それまでにはさまざまな紆余曲折がありました。研究というのはすぐに正解が出るものでもなく、回り道をしながらようやくたどり着けるものですが、そもそも研究費が不足していては行き着くまえに力尽きてしまいます。そうした過程もふくめた潤沢な助成をしてくださいましたので、ひじょうに助かりました。ほかにはない素晴らしい助成ですので、ぜひ多くの方にチャレンジしてほしいと思っています。

長時間にわたるインタビューにお応えいただき、誠にありがとうございました。