助成研究者情報(杉浦彰彦先生4)|安全安心な科学技術の振興:セコム科学技術振興財団

静岡大学 創造科学技術大学院 情報科学専攻 教授 杉浦彰彦先生インタビュー 「ワイヤレスパーソナルエリアネットワークを用いた知的環境認識の獣害対策システムへの応用」(第2回)

 近年、山間部に生息する野生動物による農作物被害が問題視されています。特に猿は学習能力も高く、群れをなして人里の農作物を食い荒らすことから、農家は深刻なダメージを被っています。杉浦彰彦先生のご専門である知的環境認識ネットワークを用いた研究により、猿の農村出現時の検知は高精度で可能になりました。2回目のインタビューでは、その検知データを利用した「出現予測シミュレーション」について詳しくお話をお伺いしました。

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 平成9年、東京大学大学院工学研究科 博士(工学)学位取得。平成2年4月、豊田工業大学工学部制御情報工学科伝送・画像研究室にて助手。平成10年7月に豊橋技術科学大学大学院の工学研究科知識情報工学専攻に講師として招聘され、平成11年8月同学助教授。平成20年4月より静岡大学創造科学技術大学院教授(情報学部・情報学研究科兼担)となり現在に至る。主な研究分野は、マルチメディア情報のワイヤレス伝送と高能率符号化、マルチメディア情報通信技術の医療と教育分野への応用。

前回のお話では、獣害に対して先生のご研究の知的環境認識ネットワークの適用を進めておられましたが、その知的環境認識とは、具体的にはどのような仕組みをいうのでしょうか。

 なんらかの知識や常識を前提に、いくつかの簡単な通信や処理を行うことで、周辺の環境や状態を認識する推定手法です。今回の研究では、知的環境認識ネットワークを構築して、猿の出現について推定をしています。

前回までのご研究では知的環境認識で猿の位置や進路の推定を行ったわけですね。

 はい。従来手法では難しかった、山間部における位置や進路の推定に知的環境認識の手法を利用しました。猿の生息する山間部では、凸凹のある地形や鬱蒼と茂った森などの障害物により、猿につけた発信機の電波の強度を正確に測定できず、精度を落としていました。そこで、複数の観測点(AP:Access Point)で猿の電波を同時に受信し、AP毎に設定した受信感度や信頼度をもとに距離の推測を行い、猿の位置や進路の推定をおこないました。(第一回インタビュー参照

「いま猿がどこにいるのか?」それを正確に検知するだけでも、たいへんであることがよく理解できましたが、杉浦先生はそれらの検知データを利用し、出現予測に取り組んでおられるとお聞きしました。

 はい、準備研究では位置や進路の推定精度の向上が主な課題でしたが、本格研究では出現予測をメインテーマにしました。そのためにはまず、猿の出現そのものを推定しなければなりません。これまではAPから一定の範囲で猿が観測されると出現とされてきましたが、ここではそれだけでなく、一定時間以上ある範囲に留まっているか否かについても判定材料にしています。位置推定の精度の観点から、APとの距離が1km以内の場合には前後20%以内に一定時間留まっている場合を広域出現、APの周辺150m以内に一定時間居る場合を近接出現と定義しています。APの多くは集落の中心部に敷設してあるので、前者は集落から離れた畑などに出現、後者なら集落近辺に出現していると推定されます。

この出現推定からどのように出現予測に展開するのですか。

 そのために、20ヶ所以上のAPを敷設して、10匹ほどの猿に発信器をつけてもらい、連続2年間のデータを収集しました。出現予測では「過去2年間」に蓄積した観測データから出現推定を行い利用しました。観測点周辺の1時間毎の「天候」「気温」「湿度」等の気象情報と「曜日」「時間帯」などの要素をパラメータとして、SVM(Support Vector Machine)という学習アルゴリズムを適用して出現予測を行いました 。