助成研究者情報(杉浦彰彦先生2)|安全安心な科学技術の振興:セコム科学技術振興財団

静岡大学 創造科学技術大学院 情報科学専攻 教授 杉浦彰彦インタビュー「ワイヤレスパーソナルエリアネットワークを用いた知的環境認識の獣害対策システムへの応用」(第1回)

猿害に対しての既存の対策も同じようなものだったのではないでしょうか。

猿害に対しての既存の対策も同じようなものだったのではないでしょうか。猿に通信端末を付けるという点では同じです。ですが、従来のシステムは誤報や検知漏れが出てしまうことがあります。1つのAPを設置するという単純なシステムでは、推定精度に問題がおこりやすく、誤報がでたり逆に検出もれがおこったりします。知的環境認識の研究材料として面白いと思い、セコム科学技術振興財団の助成を申請しました。

詳しくお教えください。

詳しくお教えください。 図をご覧ください。最初に図中のAP5が電波を検知したとします。数分後AP6・AP4が検知しました。AP5を中心にしてAP4・AP6の付近に猿が近づいていることが容易にわかります。では最初にAP5が電波を検知し、5分後にAP6・AP1が検知したとしたらどうでしょう。これは山間部では頻繁に発生する矛盾で、理由としては猿が谷間などに居て、そのまま谷に沿って電波が進んでくる地形の影響で電波の指向性が強くなり、AP1まで突き進んでしまったと考えられます。

単純にAPを増やせば、誤報を避けられるわけではないのですね。

 そこでAP毎に「信頼度」という考え方を導入しました。各APは自身の両隣のAPとのみ通信するように設定し、猿からの電波を検知したAPのみが、隣のAPに対して通知します。通知を受けたAPは「+1」を加算して、自分自身の信頼度の重みを計算していきます。すると表のような信頼度が把握でき、AP5付近にいるという確率が高いことがわかるのです。

誤報をなくす「信頼度」の仕組みについては理解できましたが、正確な位置特定はどのような方法で行われるのですか。

 電波で対象の距離を測る場合、3辺計測が基本です。計測したい1点に対してこちらがAPを2点以上用意し、2点からのそれぞれの電波の強度(これをRSSI〔Received Signal Strength Indication〕と呼びます)を計測すると距離がわかります。判明した距離を半径にし、2つの円を描き、その交点が求めたい場所ということになります。
 そのアクセスポイント2点の選び方には、2つあります。最もAP間の距離が離れているものを推定に用いる方法(DistantAP:DAP法)とRSSIが強かった2つのAPを推定に用いる方法(RSSI法)です。DAP法ならAP1とAP6が、RSSI法ならAP4とAP5が選択されることになります。検証実験によって明らかになったのは、DAP法に前述の「信頼度」を加えてAPを2つ選ぶDAP-HKC法(Hop Knowledge Confidence)がもっとも高精度な手法であるとわかりました。これによりDAP法単体のときよりも約80%の位置推定精度向上に成功しています。

距離で表すとどの程度、精度が向上したのでしょうか。

 近づいてくる猿に対して、有効な対策を行うためには、100mの誤差以内に収めてほしいと現地の人達から要望されています。当初12台のAPで計測していたときは、200m程の誤差がありました。最終的には24台、敷設可能になりましたので、現地の人達が求める100mの誤差には対応できるようになりました。さらにDAP-HKC法を用いることで概ね50m以内の誤差におさえることができました。