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東京医科歯科大学難治疾患研究所 病態細胞生物学分野 教授  清水重臣先生インタビュー(第2回)「オートファジー機構を応用したスマート・エイジング対策法の開発」


それは、なぜなのでしょうか。

  おそらく生体のマウスでは、何らかの代償作用が働いているのだと思います。ですから、今後は生体マウスでUkl1のかわりにはたらく分子を突き止めるとともに、Atg5非依存的オートファジーが、体のどこで、どのようなタイミングで誘導されるのかを明らかにしていきたいのです。

それが解明されると、どのようなことに応用できるのでしょうか。

  ある種の貧血症に応用できる可能性があります。また、それ以外にも、じつはミトコンドリアの異常によって起こる病気がいくつかあります。
  パーキンソン病は手足のふるえや筋肉のこわばりなどの運動障害が起こる、主に50代・60代に発症する病気で、全国に10万人以上もの患者がいるといわれています。ハリウッド俳優のマイケル・J・フォックスがかかった病気といったほうが、わかりやすいかもしれませんね。
  脳から全身の筋肉に命令がくだされるとき、ドーパミンが必要なのですが、それが不足するために起こります。この病気の原因のひとつは、オートファジーが起こらないことにより、異常なミトコンドリアが神経細胞内に蓄積し、細胞に傷がついて神経細胞が欠落してしまうことだといわれています。脳の組織にある一部の神経細胞が欠落すると、本来そこから発信される命令に異常が生じ、筋肉のうごきや精神・知能に影響をおよぼすことにより発症します。
  この病気の原因は、オートファジー機能の不良によって古くなったミトコンドリアが正常に除去されないためであると考えられますので,オートファジーを活性化する薬を投与すれば、パーキンソン病の症状も改善できるのではと考えています。
  また、ハンチントン病をご存じでしょうか。現在全国に約800人ほどの患者がいるといわれる稀有な病気ですが、別名、舞踏病ともいわれるように、自分の意思とは関係なく手足が踊るような動きをしてしまう病気です。また、遺伝性があることも知られており、両親のどちらかがハンチントン病の場合、その子どもは5割の確率で発症し、また、言語障害やうつなどの症状がみられます。この病気は,ポリグルタミンと呼ばれる異常なタンパク質が神経細胞内に蓄積し、神経細胞が欠落してしまうことが原因だといわれています。この病気も、オートファジーを活性化する薬を投与すれば、ポリグルタミンタンパク質が分解されて、症状の改善が期待できます。

Atg5非依存的オートファジーを誘発すれば、ハンチントン病の治療が可能になると。

  はい。オートファジーを活性化する化合物を投与することによって、誘発させます。化合物とは薬のタネのようなものです。5万種類ほどの化合物を細胞にふりかけ、オートファジーの活性がみられるかどうかを観察し、有望な化合物をマウスに投与しています。
  じつは、それらの化合物には形が似ているものと、まったく違うものとがあります。今回はできるだけ形がばらばらになるように選び、ひとつ活性が強いものが見つかると、つぎにそれと似た形の化合物を何十種類か作り、ふたたび反応をみる、という作業を繰り返すことによって、より活性の強い化合物を見つけていっています。

そうして見つけた化合物は、飲み薬のようなかたちでマウスに投与しているのでしょうか。

  現時点では脳脊髄液に直接注射するという方法をとっています。しかしこの方法では実際に患者に投与するとなると負担が大きすぎるため、飲み薬などの経口投与できるかたちにしたいと思っています。また、ハンチントン病に効く薬の開発に成功すれば、それがそのままパーキンソン病の治療にも使える可能性が高いと思っています。

なぜ同じ薬で、どちらの病気も治すことができるのでしょうか。

  どちらの病気も、原因はオートファジーの不具合による神経細胞の欠落ですから、オートファジーを活性化する薬を投与すれば、ハンチントン病もパーキンソン病も改善できるのではと考えています。

ほかにも、Atg5非依存型オートファジーを活用できそうな治療方法というのはあるのでしょうか。

  じつは、ハンチントン病とパーキンソン病だけでなく、ガン治療へ応用できる可能性も高いのです。

ガン治療となると、成人の三大死因のうちの一つといわれていますから、その恩恵を受けられる人は、何百万人、何千万人という単位になってきます。本当にガン治療に、Atg5非依存型オートファジーを活用できそうなのでしょうか。

  じつは、ガンはアポトーシスの変調によって起こるものがあります。また、現在使われている抗ガン剤も放射線治療も、がん細胞に無理矢理アポトーシスを誘導するものなのです。私の場合は、オートファジーを活用しますから、これまでとはまったく違ったアプローチ方法になります。
  アポトーシスを誘導する治療法には、皆様もよくご存じのように、さまざまなデメリットがあります。おなじ治療を幾度も重ねることによって患者さんに耐性ができてしまったり、また効いているとしても、患部の周辺の他の健康な細胞までも傷つけてしまうという副作用が起こります。

つまり、これまでのガン治療は、アポトーシスを誘導する方法のみに目がいきがちだった、と。

  はい。そこで私は、同じように細胞死を起こすことができるAtg5非依存的オートファジーを使えば、その現状を打開できるのではと考えました。
  現在、オートファジー細胞死を活性化する4種類の化合物を見つけたところです。オートファジーを誘導する薬、という点ではハンチントン病とおなじですが、ガン治療の場合は同時多発的に大量のオートファジーが発生することで細胞そのものを死滅させるオートファジー細胞死を誘導します。即ち、通常オートファジーは、細胞を生かすために働きますが、一過性に非常に強く誘導した場合には、自分の成分を消化しすぎて「オートファジー細胞死」が実行されるのです。
  この薬をマウスに投与したところ、既存の抗ガン剤よりも、強い活性が確認できました。また、正常細胞よりも、ガン細胞に対してだけより強い効果を示しています。つまり、これまでのガン治療薬のような重篤な「副作用」も、見られないということです。現在は薬剤最適化の作業中です。