助成研究者情報(清水重臣先生4)|安全安心な科学技術の振興:セコム科学技術振興財団

東京医科歯科大学難治疾患研究所 病態細胞生物学分野 教授  清水重臣先生インタビュー(第2回)「オートファジー機構を応用したスマート・エイジング対策法の開発」

 人の細胞が健全性を維持するためには、不具合が生じた細胞が速やかに死んで新たな細胞が生まれる場合と、不具合部分を細胞内で消化して細胞をリフレッシュさせる場合が有ります。前者には、「アポトーシス」などの細胞死が働いており、後者には、細胞をつねに新しい状態に保つために古くなったものを取り除くはたらきをする「オートファジー」が働いています。なかでもオートファジーは、謎の部分が多いメカニズムでした。しかし、清水先生の発見した新しいオートファジーのメカニズムは、難病治療への応用など、医療を大きく変革する可能性を秘めています。
  インタビューの第2回では先生が発見されたAtg5非依存的オートファジーのメカニズムと、難病治療や老化対策への可能性についてお伺いしました。

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昭和59年 大阪大学医学部卒業
昭和59年 大阪大学医学部旧第一外科入局。以後、8年間、外科臨床に従事。
平成 6年 大阪大学医学博士号取得。
平成 6年 大阪大学医学部第一生理学教室助手
平成 8年 大阪大学医学部遺伝子学教室助手 平成12年 大阪大学医学部遺伝子学教室助教授
平成18年 東京医科歯科大学 難治疾患研究所 病態細胞生物学 教授 
現在に至る。医学博士。


前回のインタビューでは、オートファジーにはタンパク質が重要な役割を果たしているとお伺いしました。

  タンパク質、と聞くと食品の成分を想像されるかもしれませんが、じつは細胞のなかのさまざまな働き、たとえば細胞の生死にかかわることなどをおこなう、細胞の大事な構成要素です。その数なんと10万種類以上存在するといわれています。
  私達人間一人ひとりから社会全体が成り立っているように、それぞれのタンパク質が、個々に有効な働きをすることによって、ひとつの細胞、ひいては人間の身体全体が健康な状態を保つことができるわけです。
  オートファジーにも多くの種類のタンパク質がかかわっています。1993年に、十数種類のタンパク質が特定されたことを皮切りに、計30種類ほどが特定されました。autophagyの文字をとってAtg1、Atg2というように名付けられたそれらのタンパク質のなかで、とくにAtg5はオートファジーに不可欠なタンパク質だと考えられてきました。

タンパク質のなかでも、とくにAtg5があることがオートファジー発生の鍵だとされていたのですね。

  そもそもオートファジーとは自食作用ともいわれるように、細胞内にある不要なタンパク質を自ら分解してしまう現象です。もともと細胞が飢餓状態のときに、なんとか栄養を摂取するため、内部の不要なタンパク質を栄養となるアミノ酸などへ分解するという、細胞のリサイクル機能として発見されました(Atg5依存的オートファジー)。
  オートリソソームという、細胞内の壊し屋のような役割をする部分が、不要物質を包んでいることを電子顕微鏡で観察することによって、オートファジーが発生していることが確認できるのですが、あるときオートファジーに必要なAtg5のない細胞にもこの現象が起こっていることに気が付いたのです。

それはどのような過程で、発見されたのでしょうか。

  この分野に取りかかる以前は「細胞死」を専門にしており、オートファジーが多発することによって細胞そのものが死に至るオートファジー細胞死を世界に先駆けて発見し、それについて掘り下げて研究していたからです。
  当時オートファジーはAtg5がキーとなることが常識だったため、Atg5がなければオートファジーもオートファジー細胞死もおこらないだろうと考え、あるときAtg5をもたないマウスの培養細胞で実験したのですが、オートファジーは起きていました。「これはおかしい、通説とは違う何かがあるのかも…」と思いをめぐらせ、Atg5に依存しないオートファジー(Atg5非依存的オートファジー)があることを発見したのです。

つまり、オートファジーには、従来から知られていた「Atg5依存的オートファジー」のほかに「Atg5非依存的オートファジー」を加えた2種類があるのですね。すると一つの疑問が生じます。「Atg5非依存的オートファジー」には、何か「別のタンパク質」が作用しているからなのでしょうか。

  いい質問ですね。冒頭で申し上げた約30種類のタンパク質が、Atg5非依存的オートファジーとかかわりがあるかどうか、一つひとつ確かめていったのです。ほとんどのものに関連性はありませんでしたが、強く関わっているタンパク質がありました。それがUlk1です。

Ulk1はAtg5依存的オートファジーにも関わっていたタンパク質の一種ですね。Ulk1によるオートファジーは、たとえばどんなときに起きるのでしょうか。

  前回のインタビューで、赤血球の話を少ししたと思います。じつは赤血球というのは、ひじょうに面白い細胞なのです。まず第一に、中央がへこんだ円盤状の形をしていること、第二に赤血球が作成される過程で、核とミトコンドリアがとりのぞかれてしまうのです。

核とミトコンドリアって、細胞のなかでも大きな役割を果たしていますが、なぜそれらが取り除かれてしまうのでしょうか。なくても大丈夫なのでしょうか。

  ご存じのように、赤血球には酸素と結合し、それを全身に運ぶ役割があります。しかし、ミトコンドリアには「酸素を消費」してエネルギーを作る機能があるため、通常の細胞と同じように赤血球にミトコンドリアがあると、全身に酸素が行きわたる前に、赤血球自身が一定量の酸素を消費してしまうということが起こってしまうのです。
  くわえて、ミトコンドリアには細胞の死を誘導する役割があるため、一つひとつの赤血球の寿命が短くなってしまいます。この二つの理由により、赤血球にはミトコンドリアは不要であり、これを取り除くのがUlk1というタンパク質なのです。

赤血球のミトコンドリア除去のメカニズムを明確にした研究者はこれまでいませんでした。

  マウスを使った実験をするとよくわかります。Atg5依存的オートファジーのみが起こるマウスはミトコンドリアが残存したままであるのに対し、Ukl1をつかったAtg5非依存的オートファジーのみが起こるマウスはミトコンドリアが正常に除去されていました。そうして、赤血球のミトコンドリア除去には「Atg5非依存的オートファジー」が関与していることがわかったのです。

ところで、これらの実験の過程でミトコンドリアが残存したままのマウスが作られたことになりますが、このマウスはどうなってしまうのでしょうか。常に貧血気味になったり、死んでしまうのでしょうか。

  そう思いますよね。でもそれは間違いです。ご安心ください。生物の身体の仕組みというのは、じつに複雑で奥深いものがあります。マウスは軽度の貧血にはなりますが、そのまま生き続けることができます。また、ミトコンドリアが残存したままのマウスが大きくなっても、大人になるといつのまにかミトコンドリアがなくなっているのです。