助成研究者情報(持田灯先生1)|安全安心な科学技術の振興:セコム科学技術振興財団

東北大学大学院 工学研究科 都市・建築学専攻 教授 持田灯先生インタビュー流体数値シミュレーションによる個別住宅の屋根雪危険度判定

災害対策というと、地震・津波・台風といったように「派手なものばかり」に気をとられがちですが、実際の死亡・傷害者の数をみると、意外なほど多いのが雪害です。多くは屋根での除雪作業に従事した結果起きてしまう、痛ましい事故ですが、従来の雪害対策は場当たり的なものが多く、著しい効果を上げることができませんでした。東北大学大学院教授の持田先生は、最先端の流体数値解析技術を応用し、この分野にはじめて科学的な視点を導入し、雪害を減らそうと模索されています。

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1958年東京生まれ。早稲田大学理工学部卒。東京大学大学院工学研究科博士課程中退、東京大学生産技術研究所助手、講師を経て、1995年4月~1999年3月の間、新潟工科大学助教授として柏崎市で雪国の生活を体験。1999年4月に東北大学工学研究科助教授、2006年8月より現職。専門は都市環境工学、特に空気流動による熱や物質の輸送現象の数値解析。1998年より日本建築学会「流体数値計算による風環境評価ガイドライン検討WG」の主査を務め、2007年にガイドラインを公表。2002年~2005年に日本建築学会「都市気候対策小委員会」の主査として都市のヒートアイランド対策に関する学会提言を取りまとめる。2007年より日本サステナブルビルディング窶「 コンソーシアム「ヒートアイランド検討小委員会」の委員長として、建築設計に係るヒートアイランド対策の評価ツールであるCASBEE 窶滴Iの改訂に携わる。2007年~2009年の間は、日本建築学会「都市の建築空間の雪氷災害対策に関する特別研究委員会」委員長。現在、日本雪工学会理事兼編集委員長、日本流体力学会理事。

先生のご専門についてお教えください。

 私の専門は建築・都市環境工学です。特に流体の数値解析技術を用いて、建物建設による風の流れの変化や建物内外での空気の流動に伴う熱や水蒸気や物質の輸送現象を予測するというあたりが一番の得意分野です。建築環境の分野で流体が必要とされるのは、空調・換気・通風などの屋内環境にかかわる問題と、ビル風・市街地の空気汚染・ヒートアイランドなどの屋外の問題と、大きく2つに分かれますが、主として屋外のほうをメインで研究をすすめてきました。従来は、ヒートアイランド対策として、都市空間の風通しをよくするにはどうしたら良いかというような夏の環境の問題を対象とすることが多かったのですが、最近では夏を対象に培ってきた技術を冬にも応用したいと考えるようになり、「風によって雪がどのように運ばれるか」という問題にも大変関心を持っています。

今回の研究を進められることになった経緯、動機についてお教えください。

 私は東京の出身で、雪というのは年間に数回降る程度で、雪が降るときれいだな、ロマンチックだなという一般の人と同じぐらいの認識しかありませんでした。これが変わったのは、1995年のことで、そこから4年間にわたって新潟に赴任することになったのです。はじめて日本海側に住むことになり、雪が引き起こすさまざまな障害がひじょうに切実な問題であることを実感しました。

建築環境工学の分野では、雪国でないところ、都市部の東京や大阪の先生によって教科書が書かれたりしています。

 教科書によると、とにかく「家は南向きに建てろ」の一点張りだったりします。しかし、積雪の多い地域の家の配置や、作りをみていると、教科書の述べていることと、まったく違ったケースが散見されるのです。最初は「新潟では、建築の基礎を知らない人が多いのだ」と思っていたのですが、実際に住んでみると、教科書通りでない、雪国独特の家の作りや、配置の仕方のほうが合理的だと思うようになってきました。
  それから15年の間に、いろいろと調べましたが、雪害問題はほとんど改善されず、むしろ雪の被害は増える傾向にあるのです。

そこで2000年代なかばになって、本格的に研究をはじめることになられたわけですね。

このURLの「積雪寒冷特別地域略図」をご覧いただくとわかるように、青い地域は「積雪ならびに寒冷地域の両地域でカバーされる地域」です。積雪地域のみ、寒冷地域のみ、まで含めると日本は国土の62%までが積雪寒冷地域となります。そこに住む人は人口の約26%にあたります。

日本人の4人に1人が冬になると、日常的に雪に接する可能性があるのですね。

 雪害を他の災害と比較してみましょう。赤いのは地震の被害者数です。薄い紫色の部分が雪害です。地震の被害というのは一時期に集中していますから、テレビや新聞などマスコミの話題が集中し、どうしても目立ってしまいます。対して雪害は、小規模だが多頻度で発生するという特徴があり、こちらも総数で考えれば、地震同様に、ひじょうに恐ろしい災害だといえるのです。

雪害では、毎年どのぐらいの被害がでているのですか。

 多い年では死者が100名を越えます。昭和の終わりから平成16年ごろまでは一時的におさまっていましたが、平成18年の豪雪では死傷者が2288名となりました。そのうち死者が152名で、そのなかの64%が高齢者です。ここ数年死亡者100人を越える年が続いています。

毎年100名以上が亡くなる原因の主たるものは何ですか。

 ほとんどは「屋根の雪下ろし」によるものです。雪国の多くの地域で過疎化がすすみ、昔は若い人がやってくれたのに、いまは高齢者自身がやらなければいけない状況に追い込まれているということが大きな問題です。また、最近は死傷者数だけを地震等の他の災害と比較して、被害の深刻さを評価するのは間違っていると思うようになりました。仮に死傷者が少なくなったとしても、雪下ろしというのは大変な労働であり、お年寄りが雪下ろしをしなくては安心して暮らせないということ自体が人道上大変な問題だと思うのです。
  さらに、自宅の雪下ろしのために仕事に行くのが遅れたり、吹きだまりにより道路が渋滞したりというように、経済面のロスも見逃せません。

雪害が寒冷地にとって切実な問題であることは、よくわかりました。でも屋根に雪が積もるだけで危険だとは到底思えないのですが…。

 たしかに、屋根の上に、雪が均等に降り積もっていれば、そんなに怖がる必要はないと思います。最近できた家なら、構造的にはしっかりしていますから、雪の重みで屋根が崩れるといったことは、そうそう起こりません。雪庇という言葉をご存じですか。