助成研究者情報(許雷先生6)|安全安心な科学技術の振興:セコム科学技術振興財団

東北工業大学工学部建築学科 准教授 許雷先生インタビュー「災害時における安心・安全性向上のためのIFC活用方策研究」(第2回)


復興住宅といえば、先日、先生の研究室に所属する学生の「陸前高田の家」という作品が、HEAT20の設計コンペに出品し、優秀賞をとりました。先生の研究室では、非常時のソーラーパネルの応用や太陽熱・太陽光発電の研究もされています。

 東日本大震災以来、災害時におけるエネルギー確保の重要性が高まりました。停電になっても空調や給湯がストップせず、ライフラインを維持できる環境づくりは、喫緊の課題です。そこで太陽光パネルの応用に関する研究を行い、2007年には建築学会に論文を提出しました。
 一般的に太陽光パネルは屋根に設置されますが、発電中はパネルの裏面が熱くなります。熱くなると発電効率が落ちるため、換気による冷却が必須ですが、パネルと屋根の隙間が狭いと、パネル裏を冷やすほどの自然換気が行えません。
 しかし太陽光パネルと屋根を一体化させれば、この熱を利用することができます。屋根裏が熱くなると、室内の冷たい空気が吸い寄せられて上昇気流が発生します。この上昇気流に乗って常に涼しい空気が屋根裏つまり太陽光パネルの裏側を冷却するため、発電効率の低下を抑えることができるのです。
 この考えをもとに院生の相澤君が中心になって設計した作品が「陸前高田の家」です。

屋根の傾斜や大きな吹き抜けが印象的な構造ですね。

 屋根一体型アモルファス太陽電池パネルのメリットは2つあり、ひとつは発電効率の低下を軽減できること、もうひとつは透光性があるため天井が光を遮らないことです。「陸前高田の家」のような吹き抜けの構造にすれば、日中は室内に多くの光が入り、家の中が明るくなります。発電だけでなく、太陽の光をそのまま利用できるのです。
 デメリットもあります。一般の太陽電池パネルの発電効率は約18~20%ですが、アモルファス太陽光パネルの発電効率は最大で10%程度です。ただし屋内に光が入るため、日中は照明が不要になるメリットもあります。
 一般のオフィスビルの場合は、照明の電力消費量は全体の3分の1を占めています。一方で、空調の電力消費量はそれよりも大きく、全体の半分を占めています。このバランスをどう取るかが重要になります。

採光のために窓の面積を大きくすると、照明の電力消費が減るが、室内の温度が上がって冷房の電力消費が増える。どちらの方がより省エネになるのか、ということでしょうか。

 はい。しかし空調の省エネを中心に考えるのか、採光を中心に考えるのかではなく、BIMを導入して「火災・地震発生時の安全性は確保できるか」「太陽光パネルの維持管理に適した環境か」など、多方面から検討を重ねて、総合的な視野で考えていくべきだと思います。
 また、太陽光は電気や照明だけでなく、熱を活用して温水を作ることもできます。太陽熱温水器を設置している戸建て住宅はよく見ますが、高層マンションでは普及していません。全世帯分の温水を作ることができないためです。より効率よく太陽熱を利用し、従来よりも多くの温水を作る方法を検討しているところです。

ご研究を終えられて、一番大変だったと感じるのはどのようなことですか。

 今回の研究では、ツールを開発するために多くのソフトを勉強しなければなりませんでした。専門家に尋ねたり、お任せするという選択肢もありましたが、私自身が「このソフトを使って何が出来るのか、どのように応用できるのか」を理解していなければ、質問も依頼もできません。
 ソフトの勉強は時間がかかり大変でしたが、徐々に理解を深めていくうちに、自分が作るべきツールの姿が明確になっていきました。新たな発見から、構想を変化させた部分もあります。もしも他人任せにしていたら、最初に想定していた通りのものしかできず、今のツールは生まれなかったでしょう。
 BIMを学べば、空調負荷の予測や建物の省エネルギー性能の予測、太陽光の応用など、建物の安心・安全を確保するための、様々な応用要素を見つけることができます。そうした情報を、今後は建築分野の教育現場でも活用できればと思っています。

学生たちがBIMを学べば、これから建築物の安心・安全がますます向上していくと期待できます。最後に、これからセコムの助成研究を開始される方々へのアドバイスをお願いします。

 研究は一人で考えて行うより、関連分野との連携が重要です。建物を設計し、施工して、運営していくというプロセスの中には、さまざまな専門分野が関わっています。そのため、「より省エネ効果の高い建物を設計するためには何が必要か」「災害に強い建物を設計するにはどうしたらいいか」といったテーマで研究を行うときは、設計分野の専門家だけではなく、たとえば自然エネルギーの研究者や、防災の専門家などの意見を聞くことで、新しいテーマや課題が見えてきたり、それまでとは異なる側面からのアプローチができるようになりました。
 他分野の専門家に研究テーマを提案して共同研究が可能になれば、一人で研究を進めるより、大きな成果が出るはずです。

災害時にどう行動するべきか、シミュレーションにより「見える化」を実現された先生のご研究がますます発展し、広い現場で活用されることを願っています。
2回にわたるインタビューにお答えいただき、ありがとうございました。