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富山大学大学院医学薬学研究部(医学)内科学(第二)講座 教授 絹川弘一郎先生インタビュー「入退院を繰り返す心不全患者に対する重症化・再入院予防及びQOL改善支援」(第1回)

 戦後の高い医療水準に支えられ、日本の平均寿命は男性79.59歳、女性86.44歳と共に過去最高を記録し、世界でも有数の長寿国として知られています。一方、豊かな生活の影で、がんや循環器病に代表される生活習慣病の患者数が増加しました。
 中でも心不全は、治療によりいったん病状が改善しても増悪をきたしやすく、入退院を繰り返す患者が多いです。とくに独居や老々世帯の心不全患者は常に不安な気持ちを抱えており、そうした状況がQOL(クオリティーオブライフ)の低下や、再入院の原因となっています。
 そこで今回は、入退院を繰り返す心不全患者に対する重症化、再入院予防およびQOL改善支援について富山大学大学院医学薬学研究部(医学)内科学(第二)講座の絹川弘一郎教授にお話を伺います。

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1988年東京大学医学部卒業、1997年同大学院修了。米国にて5年間、博士研究員を務めた後、2002年から東京大学医学部循環器内科助手、2010年東京大学医学部循環器内科講師、2013年東京大学重症心不全治療開発講座特任教授、2015年より富山大学医学部第二内科教授となり現在に至る。専門分野は循環器内科学・心不全。日本循環器学会の代議員、日本心臓病学会の代議員、日本心不全学会の理事などを務める。日本内科学会認定総合内科専門医、日本循環器学会認定循環器専門医、日本移植学会移植認定医。
研究室URL
http://www.med.u-toyama.ac.jp/inter2/d1.html

まずは、今回の助成研究に取り組んだキッカケについて教えてください。

 我が国における心不全患者数は、人口の高齢化とともに増加傾向にあり、現在はおよそ150万人とされています。これまでがん対策には多くのリソースが投じられてきましたが、循環器疾患、なかでも心臓疾患の最終末像というべき心不全に対しては、十分な研究助成がなされてこなかったという思いがあります。

そもそも心不全とはどのような病気なのでしょうか。

 心不全とは心臓が血液ポンプとしての役割を果たせず、全身の臓器器官に必要な血液量を送ることができなくなった状態のことをいいます。原因は生活習慣病が多く、代表的なのは高血圧や心筋梗塞などです。
 こうした心疾患によってポンプ機能が低下すると、血液の循環が滞ります。しかし身体は正常な状態を保とうとするので、心臓を肥大させたり収縮の力を強めたりして心拍出量(心臓から送り出される血液の量)を増やそうとします。また循環血液量の減少によって血圧が低下すると、手足の血管を収縮させることで血圧を維持しようとします。これらを代償行動といいますが、長く続くと心臓が疲れてしまいます。

代償行動によって心臓に無理な負担がかかるのですね。

 はい。しかし多くの場合は代償しきれず、さらに心臓のポンプ機能が低下し、各臓器に必要な血液量が送られなくなるので、身体にさまざまな症状が出てきます。主な症状としては、疲労感、坂道を歩いているときや重いものを持ったときの息切れ、呼吸困難や体のむくみ、夜間頻尿などが挙げられます。
 なかでも慢性心不全は、生命予後に関わる危険な状態です。最初は心臓の機能が徐々に低下していくためわかりづらいのですが、たとえば風邪などがきっかけで急性心不全への移行を繰り返していると、持続的に心不全の症状が現れるようになり、最終的には横になっているだけでも苦しいという状況になってしまいます。
 また中等症以上の心不全患者の多くは専門性の高い大病院に通院する必要がありますが、そのような病院は予約制であることがほとんどです。療養生活上の相談をタイミングよく、かつ簡便にできる窓口が限られており、重症化して入院することではじめて治療変更や生活指導が入ることは珍しくありません。そのせいか、我が国の心不全患者の1回の入院期間は1カ月を要し、ひとり当たり平均120万円の医療費が使われています。

患者にとっては、通院すること自体が負担になっていると。

 はい。そこで患者に対して在宅での遠隔モニタリングを行い、必要に応じて看護師、保健師、医師が電話で療養支援をすることで、患者のQOLを改善すると同時に、医療費の抑制にもつなげられるのではないか、と考えました。