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九州大学 大学院人間環境学研究院 都市・建築学部門 教授 堀賀貴先生インタビュー「古代ローマ帝国の防災・防犯マネジメント」(第1回)

 古代ローマでは、100mあたり数ミリの高低差だけで、数十キロ先から水道を引く技術や、パンテオン・コロッセオに代表される2000年近くも強度を失わないコンクリートを使用した高層住宅の建造に成功しているなど、現代都市のインフラにも匹敵する建築技術がすでに完成していました。
 一方で、現代のような国家的な警察組織が存在せず、各々が自分の身は自分で守るという「自己責任社会」であったことはほとんど知られていません。
 古代ローマ人はどのようにして自身の生活の安心・安全を確保していたのでしょうか。
 今回は、都市全体の構造を調査、比較することによって明らかとなった「古代ローマ都市の防災・防犯マネジメント」について九州大学大学院人間環境学研究院都市・建築学部門の堀賀貴教授にお話を伺いしました。

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1994年京都大学大学院工学研究科建築学専攻博士後期課程単位取得。その後、日本学術振興会特別研究員、同海外特別研究員、1995〜1997年マンチェスター大学美術史および考古学学科を経て、1997年に山口大学講師として採用される。1999年山口大学助教授、2003年より九州大学大学院人間環境学研究院都市・建築学部門教授となり、現在に至る。
研究室URL:http://history.arch.kyushu-u.ac.jp

先生が古代ローマのご研究を始められたきっかけについて、教えてください。

 私は最初から研究者になろうとしていたわけではありません。学部時代の研究室は日本建築の歴史を専門分野としており、当初は普通に建築家になりたいと思っていました。しかし、数カ月間ローマを旅するうちに、古代ローマの歴史について興味をもつようになりました。
 そんなとき、担当教授から外部の研究プロジェクトとして、ポンペイの調査があることを知らされ、研究への参加を志願したことが、きっかけです。

古代ローマには様々な都市がありますが、主にどこを調査されていますか。

 古代ローマの、主にポンペイ、オスティアの二都市を研究しています。
 これまで古代都市の研究は、その都市の建造物ごとや遺品などに集中して調査する「ミクロ視点」で行うことが主流でした。今回の私の研究では両都市間全体を調査して比較する「マクロ視点」をもって研究しています。
 この手法での古代ローマ研究は世界初となります。

世界初とは驚きですね。なぜマクロ視点からの研究を考えられたのでしょうか。

 まず、ポンペイとオスティアがローマにとってどのような役割を果たしていたのかから、ご説明します。
 ポンペイはナポリ湾から少し離れた地点に位置しており、港に届いた物資をローマの街道へと運搬するための拠点として栄えた、古代ローマ「黎明期」を代表する豊かな地方都市でした。その後、ヴェスヴィオ火山の噴火によって、街ごと火山灰の下に沈むという悲劇的なエピソードは有名ですね。
 対してオスティアは、ティレニア海のテヴェレ川河口部に隣接した、古代ローマ「衰退期」を象徴する港街でした。現在では街の北部に別荘地が開発され、夏には海水浴場として多くの観光客が訪れます。

オスティアという都市の名前は、初めて耳にしました。

 オスティアの遺跡は、歴史的には非常に価値があるのですが、ポンペイのような目立ったエピソードがあるわけではないので、日本ではあまり有名とは言えませんからね。
 しかし古代ローマの「黎明期と衰退期の都市」その両方を防犯・防災の視点から見ることによって、古代ローマの歴史全体が明らかになると考えたのです。

具体的な調査方法を教えてください。

 調査で用いたのは、レーザースキャナー、GPSを使用した測量機(GNSS)など、最新の機材です。
 これらを数十メートルの間隔で設置、街全体をミリ単位で、計測するのです。
 先ほどマクロ視点での古代ローマ研究が世界初であるということを述べましたが、極めて正確な遺跡全体のデータを取得することに成功したのも、本研究が初となります。