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京都大学大学院医学研究科 社会健康医学系専攻 教授 福原俊一先生インタビュー「医療の質改善を目的とした次世代診療支援システムの開発と活用」(第1回)

複数の病気にかかっている高齢者を総合的に診るプライマリ・ケア医の支援と考えると、想定される病名や症候の数が膨大になりそうですが……。

 扱う症候が多岐に渡ることが懸念されましたが、これまでの実態調査など文献検索を行った結果、およそ42の症状だけで来院患者の主訴の4分の3以上を網羅できることが判明しました。この42症状に関して、臨床医にはよく知られているOPQRST方式で整理・要約し、対話型で情報を収集していくプログラムを作成しました。
 OPQRST方式とは、次の単語の頭文字をとって並べたものです。
 ・Onset:発症様式(いつ・突発か徐々にか・周期的か、など)
 ・Palliative/Provocative:悪化・誘発因子(特定の要因で症状が出現悪化するか)
 ・Quality/Quantity:性質(どのような性質の症状か)
 ・Region:部位(体のどの場所に症-状が認められるか)
 ・aSsociated symptom:随伴症状(症状とともに現れる別の症状があるか)
 ・TimeCourse:時間経過(時間経過とともにどのように症状が変化したか)

また、見やすくなるように、画面のデザインも変更しました。

42症状を元にした質問というと、たとえば心臓疾患用の質問や、肺疾患用の質問とかがシステムに入っているということですか?

 総合診療は、すべての内科の入口です。たとえば「胸が痛い」と訴える人は自分が心臓疾患なのか肺の疾患なのかわかりません。医師や看護師もすぐにはわかりません。ですから「心臓疾患用の質問」というのはナンセンスといえます。したがって、あくまで「胸の痛み」という「患者さんのことば」をベースに問診を行います。
 このシステムを用いることで、患者さんの隠れた病気を発見することも可能です。
 たとえば高齢者の多くが排尿障害にかかっていますが、羞恥心のせいか、深刻な状態にならないかぎり受診に来ません。そこで242名の患者に対してこのシステムで質問を行ったところ、排尿障害の症状がある患者は57名(約4分の1)、そのうち治療をしていない患者は43名でした。つまり、排尿障害の症状がでているにも関わらず、治療を受けていない患者が75%もいるという驚くべきことがわかりました。

隠れた病気の早期発見、早期予防や治療に繋がるということですね。p-Listeners(R)での問診は、何分くらいかかるものなのでしょうか。

 平均で5~6分です、早ければ2~3分で終わる人もいます。
 このシステムは現在、4つの医療施設で検証実験を行っています。診察前に情報収集を行い、患者さんの問題がきれいに整理されて医師のパソコン画面に表示されることで、7分間もの診療時間の節約が実現しているとのことでした。
 逆に言えば、患者さんと話をして、抱えている問題を洗い出し、条件や状態などをすべて確認してカルテに記入するまで、7分かけて行っていたということです。

p-Listeners(R)を使えば、その7分は診察が始まる前に終わっていますから、かなり時間の余裕が生まれそうです。

 はい。実際、p-Listeners(R)を試しているクリニックでは、患者さんとお医者様のコミュニケーションが豊かになりました。病気に関することはすでに伝わっているため、患者さんは病気以外のこと、たとえば家族との関係や、仕事上の悩み、今の気分など、病気とは関係のないことも話すようになり、信頼関係が深まったそうです。

このシステムを開発するなかで、何か大きな発見や、驚きはありましたか。

 大きな発見、というほどではありませんが、意外だったことは、高齢の患者さんが普通にタブレット端末を使いこなすことができる、ということでした。
 失礼ながら「高齢の方はITの扱いが苦手で抵抗感を持っている」という先入観があったため、最初は1から10まで付きっきり教えなければならないと思っていたのですが、そのようなことは一度もありませんでした。銀行ATMのタッチパネルや、駅の券売機など、高齢者の日常にすでにIT機器が溢れているためでしょう。意外でしたが、ストレスなく使っていただくことができて、助かりました。

 

 

患者と医師のコミュニケーション支援ツールが、信頼関係の向上はもちろん、診断能力の向上、医療費のムダの削減、超高齢社会の課題解決への寄与など、さまざまなところで良い影響を与えていることがわかり、非常に興味深い内容でした。
次回はp-Listenersと連携して診療情報のデータベース化とデータ活用を実現する、もうひとつのシステムp-Retrieverについて、詳しくお話しを伺います。