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東京大学大学院 医学系研究科加齢医学 教授 秋下雅弘先生インタビュー「地域における総合的な在宅医療福祉システムの導入とそれに対応する情報システムの開発」(第1回)


退院後のかかりつけ医や施設選びは、都心部と郊外で、大きな差がありそうです。

 都心部には内科や外科、消化器科など、自分の専門分野を看板に掲げている開業医がたくさんあります。また介護施設も通所・入所ともにそろっているため、患者さんは自分に合う医院や施設を選ぶことができます。
 しかし郊外や離島では「村には医者が1人しかいない」という状況が珍しくありません。その先生は当然、どのような病気でも診察しなければならず、都心部であれば入院・入所しているレベルの患者さんを在宅で診ているため、大きな負担を背負っています。

柏モデルでは、主治医の負担が過大にならないように副主治医を設けて、連絡を取り合いながら患者のケアをしていますね。

 これを応用すれば、離島や山村などの開業医でも、都心部の専門医からサポートを受けることができます。たとえば自分には分からない症例に遭遇したとき、患者さんのレントゲン写真や超音波検査の画像を専門医に送信して「これは○○だから、□□すれば大丈夫です」等の適切な指示をもらうことで、誤診を減らし、重症化を食い止めることが可能になります。

そうした医師同士のやりとりは、まだ個人的な関係の中だけで行われているのですね。

 医師同士がボランティアで行っている状態です。そのため地域医療の現場では原因が分からない急性状態の患者さんに対して「救急車を呼んで、あとは大病院に任せよう」という流れになりがちです。しかし運ばれてきた患者さんを詳しく調べれば「適切な処置ができていれば入院する必要はなかった」というケースが多々あります。
 地域医療の現場と専門医がネットワークで繋がり、さらに高性能の診断機器を備えることができれば「救急車を呼ばなくても、○○をすれば大丈夫です」「これは専門科がある□□病院に救急車で送ってください」といったコミュニケーションがとれるようになり、救急車のたらいまわしや、不要な入院が少なくなるはずです。
 これを実現するには地域医療へのサポート行為を診療報酬の点数にするなど、専門医にメリットがあることを明示して積極的な参加を呼びかけなければなりません。その前段階として、厚労省が認めるだけのエビデンスをまとめて提案していく努力も欠かせません。

高齢者医療の課題は、医療全体の課題でもあるような気がします。その課題を解決することで、医療の適正化が進み、医療費の削減が大きく進みそうです。

 現在、国の社会保障費のなかで高齢者医療が多くを占めているため、自分が社会のお荷物のように感じている患者さんもいます。それは大きな間違いで、医療費のムダが発生しているのはあくまで制度の問題です。この問題を一つひとつ改善して新しい仕組み作りを行っていくことが、大学や学会で働いている私たちの仕事であると思っています。

 高齢になり病気を抱えても安心して生活できるシステムが実際に展開されていること、
さまざまな課題に対する解決策が存在していることで、未来が明るくなった気がします。
次回は老年医学の詳しい内容について、お話しを伺います。
本日はお忙しいなかインタビューにお答えいただき、ありがとうございました。