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東京大学大学院 医学系研究科加齢医学 教授 秋下雅弘先生インタビュー「地域における総合的な在宅医療福祉システムの導入とそれに対応する情報システムの開発」(第1回)

 年齢とともに心身機能が低下しても、住み慣れた地域で安心して暮らしていくこと。それは多くの人々の望みです。現在、日本では『超高齢社会』の到来に備えて、医療・介護分野でさまざまな対策が進められています。なかでも東京大学高齢社会総合研究機構が千葉県柏市で取り組んでいる「柏プロジェクト」は、ICTの活用により地域社会で医療・介護のシームレスな連携を実現した新しいモデルシステムです。今回は高齢者医療の現場からさまざまな問題提起を行っている、東京大学大学院医学系研究科教授および高齢社会総合研究機構副機構長である秋下先生に、柏プロジェクトの現在と日本が取り組むべき課題についてお伺いしました。

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1985年東京大学医学部卒業。東京大学医学部老年病学教室助手、ハーバード大学研究員、杏林大学医学部高齢医学助教授を経て、東京大学大学院医学系研究科教授になり、現在に至る。高齢社会総合研究機構副機構長。高齢者の生活習慣病や適切な薬物使用、老化と性ホルモンなどについても研究を行い、日本老年医学会で薬物療法のガイドラインを作成した。著書に『男が40を過ぎてなんとなく不調を感じ始めたら読む本』(メディカル・トリビューン社)、『高齢者のための薬の使い方』(ぱ-そん書房)『薬は5種類まで 中高年の賢い薬の飲み方』(PHP新書)などがある。
http://www.h.u-tokyo.ac.jp/geriatrics/


まずは、今回の研究内容について教えてください。

 高齢になって身体機能が衰えたり病気にかかったりしても、住み慣れた土地で自分らしく生きていくためには『地域包括ケア』の充実が不可欠です。地域包括ケアとは、かかりつけ医や看護師、薬剤師、歯科医師などの医療分野と、ケアマネージャーや介護士などの福祉分野が連携し、医療・福祉サービスが一体となったケアシステムです。
 多職種の連携は、病院内ではすでに行われていますが、地域社会で同様の連携を実現するためには、ICTを活用した情報システムの整備が必須です。そこで東京大学高齢社会総合研究機構の辻先生にご協力いただき、多機関・多職種が連携する在宅医療福祉モデルの構築と、関係者同士がリアルタイムで情報を共有するためのシステム開発を行いました。

現在、千葉県柏市でこのシステムが運用されていますね。

 2010年から柏市医師会との話し合いを始め、翌年には構築すべきシステムの内容を検討するワーキンググループが発足しました。2014年には情報共有システムが本格稼働し、現在は柏市内の病院・診療所・歯科・薬局・訪問看護・リハビリなどの医療サービス分野と、地域包括支援センター・居宅介護支援・訪問介護・通所介護などの介護サービス分野の事業者がシステムに参加し、情報を共有しながらケアに当たっています。

プロジェクトの開始から5年が経過しましたが、どのような成果がありましたか。

 このプロジェクトで生まれたものはたくさんありますが、その中でも大きな成果として24時間対応の医療・看護・介護サービス事業所が併設された「拠点型サービス付き高齢者向け住宅」の誘致が挙げられます。この住宅は昨年5月から運用が開始しました。すべてのサービスを併設する住宅の整備は、全国初の試みです。

 また、2013年には在宅医療・福祉の連携のあり方をルール化した「柏モデルガイドブック」が作成されました。
 5年前に締結した柏市、都市再生機構との連携協定は有効期間が完了しましたが、5年間の成果と今後の課題などを反映させた「住み慣れた場所で自分らしく老いることのできるまちづくり:Aging in Place」に向けて新たに変更協定を締結し、今後3年間の活動が決定しています。

福井県坂井地区広域連合でも情報共有システムの開発に取り組んでおられますが、福井県でも、このシステムが使えるのですか。

 柏市と福井県では多職種の連携の熟練度や、医療・介護従事者が使用している各様式類、実践内容などが異なるため、どの情報を共有して、どのようなルールを作成するべきか、その判断も違うものになります。どのような地域でも適用可能な、実用的で汎用性のある情報システムの開発は難しいと感じました。しかし昨年度は全国から250件もの視察があり、先導モデルになっているという実感はあります。

地域の実情に合わせて、最適な方法を編み出す必要があるのですね。ところで東京大学高齢社会総合研究機構とは、どのような機関なのですか。

  どの国も経験したことがない超高齢社会を迎えるにあたり、想定されるさまざまな課題に対して、医学・理学・工学・法学・経済学・社会学・心理学・教育学などを包括する学際的なチームで取り組むことを目的に、東京大学が2009年に設置した機関です。
 設立当初は高齢者分野に関わりがある各学部の先生たちがネットワークを作り、連携教員として運営に関わっていました。私も医学部准教授のころから参加しています。