防災・防火 2020年08月05日

第312回 豪雨災害への備え、ひとり暮らしの女性にできる事前の対策

記録的な豪雨により、多くの方が被害を受けています。被災された皆様には、心よりお見舞い申し上げます。
甚大な被害を目の当たりにし、不安な女性も多いと思います。水災が現実のものになったとき、どのように行動すればよいのでしょうか。

今回から2回にわたって、セコム株式会社IS研究所の研究員、井上雅子さんに水災のリスクと対策について解説してもらいます。
今回は、水災に備えた事前の準備についてまとめました。

2020.8.5更新

記録的な豪雨により、多くの方が被害を受けています。被災された皆様には、心よりお見舞い申し上げます。
甚大な被害を目の当たりにし、不安な女性も多いと思います。水災が現実のものになったとき、どのように行動すればよいのでしょうか。

今回から2回にわたって、セコム株式会社IS研究所の研究員、井上雅子さんに水災のリスクと対策について解説してもらいます。
今回は、水災に備えた事前の準備についてまとめました。

<プロフィール>
プロフィール

井上 雅子
セコム株式会社 IS研究所
サービスエンジニアリングディビジョン
空間エンジニアリンググループ
研究員

専門である建築の3Dモデル解析を活用して、空間の安全性や快適性を向上する研究を行っている。避難安全検証などの実務を生かし、防災リスク検討の逃げ地図ワークショップ(逃げ地図マニュアル[地域版] )等、幅広く防災活動に取り組む。

「水災」はいつどこで起こるかわからない災害

Q
記録的な豪雨や台風による大規模な水災被害が、毎年のように起きています。以前より水災が増えているような気がするのですが...?
A
温暖化にともない、局所的な大雨や短時間に降る強い雨の頻度が増加しています。
また生活の利便性を高めるため、住宅地に適さない土地に家が建ったり、都市部の地下街が発達したりしたことも、水災被害が深刻化する一因と言えます。
局所的豪雨が頻発し、かつ土地の使われ方や、都市が変化することによって、水災はいつどこで起きてもおかしくない、誰もが被災者になりうる災害になってきているのです。
画像
Q
大雨による水災はどのようにして起きるのでしょうか。
A
どこに、どれだけ雨が降ったかによって、発生する水災は異なります。

・外水氾濫
河川の上流で雨が大量に降って増水し、大量の水が堤防を超えたり、堤防が決壊したりすることで発生する氾濫。
河川に隣接する住宅地などに甚大な被害をもたらす。
上流の雨の影響を受けるため、下流で被害が発生するまでに時間差がある。

・内水氾濫
市街地に雨が大量に降り、下水管や排水路の処理能力を超えた際に起きる氾濫。
雨の処理能力を超えた瞬間に発生するため、突然、街中に水があふれだす
道路などがコンクリートに覆われた都市部で起こりやすく、地下街や住宅などが浸水すると深刻な被害が及ぶ。

・土砂災害
大雨によって地面に大量の水が染み込むことで山や崖が崩れたり、水とまじりあった土砂が斜面を伝って流れだしたりする災害。突発的に起こるため、発生してからでは避難が難しい。

まずは、ハザードマップの確認が大切です。
自身の生活圏で起こりうる水災リスクの種類を確認しておきましょう。
水災のハザードマップには、洪水が起きたときに予想される浸水域や、土砂災害の危険エリア、避難所、避難場所などの場所が記されています。
ひとり暮らしの女性は、いざ水災が発生すると自分で自分の身を守る必要があります。
万が一の水災に備えて、身を守る具体的なイメージを持ちましょう。

ひとり暮らしの女性が水災に備えてすべきこと

Q
ハザードマップで水災リスクを知ることが重要ですね。ひとり暮らしの女性に必要な水災対策を教えてください。
□水災の避難場所の場所と避難ルートを確認しておく
水災の避難場所は、地震のときの避難場所と異なる場合があります。
水災の避難場所は、水が流れ込む低い土地や川のそばを避けているはずですので、水災のときはどこが避難場所になるのか、事前にハザードマップで確認してみてください。

また、避難場所への経路も確認しておきましょう。
低い土地や川のそばといった経路は避けた方が安全です。
危険ルートを通らないと避難場所にたどり着けない場合は、隣町の避難場所に行ったほうがいい場合もありますので、複数の避難場所を把握しておきましょう。

事前の避難の想定を行うためには、逃げ地図といった取り組みもあり、自分たちがいる場所はどれくらい避難時間がかかるのかも、確認しておいた方が良いと思います。
土地の高低差やアンダーパスなど、水災のときの危険個所は意識しないと見落としがちです。
ハザードマップを片手に実際に生活圏を歩いて、ご自身の目で安全な避難経路を探してみてくださいね。
□情報収集のためのアプリを複数用意しておく
大規模水災の引き金となる猛烈な豪雨や台風に見舞われれば、誰でも不安になります。
女性のひとり暮らしならなおのこと。
状況を正しく把握できる情報源を確保しておくと安心につながります。
今後の予測や避難のタイミングを判断する材料として、防災アプリやお天気アプリを用意しておくといいでしょう。
刻々と状況が変わるなかでは、アプリの情報にもばらつきやタイムラグが起きることがあるので、ひとつの情報に頼らないことが大切です。
複数のアプリをダウンロードして、アプリの使い方に慣れておきましょう。
また自治体が独自に河川の水位や洪水予報を配信しているところもあり、より地域に密着した情報を得られます。
何も起きていないときからの準備として、チェックしてみましょう。
□家族との連絡手段を決めておく
「いざというときどのように連絡を取るか」をご家族や大切な人と話し合っておくことも、事前の準備のひとつです。
被災時の混乱した状況のなかでは、電話やメールがつながりにくくなることも考えられます。
安否確認や状況把握などができるツールもひとつに頼らないことが重要です。
様々な防災アプリを活用し、情報収集を行ってください。
また、「災害伝言サービス」は、毎月1日・15日などに体験利用ができるので、事前に操作方法を確認することができます。
□水災用の備蓄をしておく
水災は、水がひいても復旧に時間がかかる災害です。
上下水道・ガス・電気などライフラインが不通になった場合を考え、簡易トイレや食料などの備蓄が欠かせません。
一般的には3~4日程度で復旧することが多いですが、水災時の復旧期間を1~2週間程度、見込んでいる自治体もあります。
どれくらいの備蓄をすればいいのか、あるいは在宅避難ではなく別の場所に避難した方がいいのか、それを決めておくためにも、自治体や地域の防災士などに水災の被害に備えた対応について相談してみることをおすすめします。
□起こりうるリスクに備えて生活する
たとえば、土砂災害で命を落とした方の多くは、住宅の1階で被災しています。
土砂災害の危険がある地域の方は、できるだけ家のなかの安全な場所で過ごすことを意識してみてください。
安全なのは、2階以上で、山や崖から離れた部屋です。
土砂が流れ込んでくるのと反対側のほうがより安全とされています。
就寝するときだけでも、命を守れる可能性が高い場所を選びましょう。大雨の時に限らず、日ごろから意識しておきたい大切なことです。

また台風のときは、強風への備えが欠かせません。
ベランダの植木鉢や物干し竿は、室内に取り込み、早めに雨戸を閉めましょう。雨戸がない窓は飛散防止フィルムを張るケースが紹介されているので参考にして対処するといいでしょう。
防災グッズはあらかじめ買っておき、いざというとき慌てないようにしておきたいですね。

水災リスクからひとり暮らしの女性を守る「地域のつながり」

Q
ひとり暮らしだと、避難した方がいいのか、それとも家にとどまった方がいいのか、誰と相談したらいいかわかりません。
A
洪水や土砂災害は、一瞬のうちに甚大な被害が及びます。
早めに対応することが命を守ることにつながりますので、ひとり暮らしの方は、自分なりの被災時の対応や、避難のタイミングを決めておくことが大切です。

避難の目安にされることが多いのは、自治体や気象庁などから発令される「警戒レベル」。
警戒レベル3...高齢者等は危険な場所から避難する
警戒レベル4...危険な場所から全員避難
警戒レベル5...すでに災害が発生している状況

災害発生の危険度と行動の指針をわかりやすく伝えるものですが、地形の特性や避難者によっては警戒レベルに合わせて行動していては避難が間に合わない可能性があります。

災害が起きてからではなく、災害が起きる前に安全な場所に身を置くことが重要です。
地域防災無線で警戒レベルがアナウンスされるということは、すでに差し迫った状態であるということ。「警戒レベル4」になってから避難行動を起こすのではなく、もっと早い段階で避難の準備をし、安全に避難できるうちに行動を起こすことが肝心です。
Q
安全のためとはいえ、女性ひとりでは避難所に行きにくい...という声も聞きます。
A
不特定多数の被災者が詰めかける公的な避難所は、女性にとって落ち着ける場所とは言えません。
被災者が多いと入れないこともあるため、避難所だけしか行く場所がない状況は回避したほうがいいと思います。
避難所以外の「避難させてくれる」場所をつくっておくことが大切です。
浸水域や土砂災害の危険エリアから離れていて、交通手段が使えなくても避難できる近隣の友人やご家族の家に、一時的に身を寄せる方が安全な場合もあります。
スムーズに避難できるよう、受け入れてくれる相手にいざというときの対応を相談しておきましょう。

また、多くの人が被災した状況においては、地域のコミュニティーが大きな役割を果たします。
ひとり暮らしの女性は地域とつながりを持つ機会があまりないかもしれませんが、災害発生時は地域の助け合いが不可欠です。
近年は、水災が頻発していることから、地域の防災活動として、水災対策に取り組むケースが増えています。
自治体や防災市民組織が実施するワークショップや、自治会や消防団が実施する防災訓練など、災害対策を学ぶ場はたくさんあるので、女性でも参加しやすい集まりも見つかるはずです。
ひとりでは動けないとき、避難の判断が難しい時などに、地域の助けを得るためにも、敬遠せずぜひ参加してみてください。

* * * * * * * * *

井上さんによると、「水災は被害を受けたあとの影響が大きい災害」とのこと。
住宅浸水では、床をはがしてカビ対策や衛生対策をしないと建物が土台からダメになってしまうのだそうです。
家が残っていてもそのまま暮らすことができないため、生活を立て直すまでに時間がかかります。

「ご自宅の被害を軽減するためには、周辺の水はけをよくしておくことがとても大切です。
雨どいや、家の前の側溝にゴミがたまっていないでしょうか。
集合住宅ならベランダの排水溝がつまると、下階や近隣宅にまで水をあふれさせてしまう可能性があります。 日ごろからこまめにゴミを取り除いてくださいね」と、井上さんからのメッセージです。

水が流れる場所を掃除してきれいにしておくことも、大事な水災対策のひとつだということ。
少しでもリスクを減らすために、できることをしておきたいですね。
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