SECOM RUGGUTS

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四、強肴 熱すぎる観戦記トップイーストリーグ

最終節
2015年11月29日(日) 14:00キックオフ
セコムラガッツ 17 715 27 日本IBMビッグブルー
1012

いざ加藤祐太、エース復権の刻。ジャパンにまで駆けのぼり、転げ落ちてなお才知を磨く作法
勝利のトライはオレの手で。WTB加藤祐太がラガッツを救う
 聞こえてくる。否が応でも。15番を着けてもWTBに入っていても外野からの声は一番近くで耳朶にぶつかってくる。相手サポーターの汚い野次、なじる言葉を受け流し、声援だけを頼りにベンチで出番を待つ仲間の存在を力へと変える。トライを取った後、加藤祐太はリザーブ席に目をやると、小さく拳を突き出してそれに応えた──

 2009年、やむをえないチーム事情から入社2年目の加藤はラガッツの中心に据えられる。本人の気持ちを確かめるでもなくキーデバイスとして働くことを余儀なくされた。トライゲッターとしての資質は折り紙付き。高校時代から「東北に加藤あり」とその名を轟かし、東北学院大では5試合で17トライのリーグ記録を打ち立てる。2012年は一つ下のトップイーストDiv.2で最多となる11トライをマーク。この年は7人制日本代表との二束のわらじでジャパンのワールドカップ出場権獲得にも貢献した。
 だがそこをピークに加藤は徐々に輝きを失っていった。東北やDiv.2ならトライを取れても上のレベルでは通用しない。そんな内弁慶ではないことは代表での活躍で証明していたはずだった。「速いだけでなくトライを取り切る力に長けている。誰が見てもうちのチームにとって貴重な得点源」(山賀敦之総監督)。しかし2013年、W杯本番を前に代表から落選。失意の中、リーグ戦ではトライゼロ。シーズン最後の入替戦での起死回生トライで帳尻を合わせるのが精いっぱいだった。「まったく仕事ができないシーズンだった。手を折って、復帰したと思ったら足首をやって。あのときはさすがに落ち込んだ」(加藤)。名誉挽回と意気込んで臨んだ昨季も3トライ止まり。加藤のトライ数とチームの順位、勝ち点は皮肉なほどに正比例し、不本意なシーズンは続いた。

 周りから褒められ、注目されるのを好むタイプではない。「耳に入ると萎縮するし緊張も増す。何も言われなくていい。やっぱすげえんだなって思われていたらそれでいい」。少々性格的に難しい人間である。争いごとを毛嫌いし、波風を立てたくない性分。弱気の虫が顔を出すとパフォーマンスは著しくダウンし、逃げのプレーに走る弱点があった。
「今年のラガッツは3トライで終わってしまう試合が多かった。あと一つと思って気が逸り、攻め急いではミスを重ねた。ラインが浅くなり、前がかりになり過ぎてスローフォワードとか我慢が足りなかった。バックスリーはトライを取るのが仕事だから責任を感じるし、カウンターを仕掛けて自分で走ればいい場面で裏へのチョンパンとか。逃げたら敵にのまれる。こういうプレーの選択が、攻める流れを殺していた」(加藤)。
 今季も思うようにトライを取れない加藤への見えないバッシングは日に日に高まった。元来ガツガツと体をぶつけて縦に行くタイプではない。簡単に抜かれる一対一はどこか無気力にすら映った。「ヤクルト戦の前日、岡本さん(=信児ヘッドコーチ)に呼ばれて『もっと身体を張ってくれ』と言われた。でもその思いに応えられなかった」(加藤)。以前はボールを持つだけで沸き上がった観客席の期待もどこか寂しくなっていた。「加藤も終わりか」。そんな空気が包まれた。
思いきりのいいランで何度も見せ場を作ったCTB湯上裕盛
 シーズン終盤、ラスト2戦に連勝し目標としてきた8位を勝ち取る。チームは大事な局面を迎えた。第8節秋田ノーザンブレッツ戦。不動のエースとして君臨した加藤はついにスタメンから外された。ショックだった。でも落ち込んでいるヒマはなかった。「後半必ず出番が来る。そのとき自分がどこで勝負したらいいか、グラウンドに集中した」。SO茂木大輔の負傷退場で出場機会は早くに訪れた。汚名返上のトライ。浮き沈みを経験し、その顔つきが明らかに変わった。そして最終節、4トライ勝ちが絶対条件の試合で加藤は再びスタメンに帰ってきた。
 他力だが勝ち点次第で入替戦回避の可能性を残した日本IBMビッグブルーとの最終決戦。実力伯仲の相手との大一番は一進一退の攻防が続く。だが気持ちの入ったタックルの応酬とは裏腹に、崩されていないのに一瞬のミスが命取りになる。オフロードパス、普段なら起こりえないプレーでターンオーバーされトライ。0-15とリードされた前半終了間際。敵陣ゴール前のチャンスで加藤は大外から手を上げ、パスを要求した。「逃げたらのまれる」。トライ職人の真骨頂。タックルされながら、半身ずらして前に出て重心を左から右へと大きく揺さぶり前に出る。腿を鋭角に突き上げて低い重心のままでゴールラインに飛び込んだ。
 トライ!貴島のゴールも決まり7-15で前半を終える。十分に逆転も4トライ勝ちも狙える位置につけた。「たぶんこの7年間で一番強いチームになった。新人もいい選手が多いし、モテやオカケン(=岡健二)という上を知っている人も来て緊張感が生まれ、競争も増えた。ベテランの域に入ってきた自分がチームを落ち着かせ、引っ張る立場にあることは明白」(加藤)。運命の後半40分、しかし3分、6分と信じられないようなミスで連続トライを奪われ引き離される。加藤は走った。止まっていた時計を動かす。後半22分、再び閃光のごとく、切れ味鋭いランでインゴールを陥れた。だがチームはまるで勝ち方を忘れてしまったかのように勝負どころで手痛いミスを犯し、みすみす逆転の芽を摘んだ。

 リーグ戦終了、0勝8敗、勝ち点2。3季連続最下位に沈んだ。加藤は5トライを積み上げ、復活の狼煙を上げた。この期に及んで日本代表との比較はナンセンスかもしれない。周到な準備、練習に練習を重ねたハードワークを体内に植え付けることで「これだけのことをやった」自負を選手たちの自信に変える。それをラガッツの環境は許さない。限られた時間の中で仕事と競技を両立する企業スポーツにおいては、少し違った視点が要求される。
「いかに一回の練習に懸けられたか。理解できたか、声を出したか。ミスに厳しく向き合えたか。密度や集中力で自分たちなりにこれだけやったという準備はできる。それを怠るとまたリーグ戦の二の舞になる。練習でさぼったことはモロに試合で出る。あと一秒早く立っていれば抜かれなかった。そんな経験を誰しも抱えている。試合が終わる瞬間にフィットネスを使い切ってしまうような。みんなが出し切るラグビーをしたい」(加藤)。
 もうすぐ激動の一年が幕を閉じる。閑けさの中、さりとて間断なく年は明ける。来月には社内で知り合い、交際に発展した女性との結婚を控える加藤。「今年こそ気持ちよく年を越したい。毎年ハラハラドキドキさせる展開ばかりだったから、危ない試合はしたくない。試合の中盤で取れば勢いづくし、最後に取れば勝負を決するトライになる。しっかり、順当に、二つ勝つ。そのきっかけを自分が作りたい」。
 かつてグラウンドを支配した面影などとうに捨てた。それでも新たな覚悟で芝に立つ。名を呼んでくれなくていい。見ていてくれ。オレのプレー、その一挙手一投足を。愛するチームを勝利へと導く美しきトライを。
【小谷 健志】
CTB 姫野 拓也
CTB 姫野拓也

ディフェンスから流れを作るという今季のテーマ通り、強い覚悟と研ぎ澄まされた集中力で鋭いタックルを連発し、相手の攻撃をことごとく遮断した。攻めてはラインを切っていくプレーで幾度もチャンスを演出。状態の良さを象徴するプレーを見せた。普段の練習でも嫌われ役を買って出て、周りに対して厳しく接し、自らの姿勢も常に律してきた姫野。しかし、チームを8位に導けず悔しさだけが残る結果となった。