SECOM RUGGUTS

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四、強肴 熱すぎる観戦記トップイーストリーグ

第4節
2015年10月10日(土) 13:00キックオフ
セコムラガッツ 21 735 59 日野自動車レッドドルフィンズ
1424

誰がために。チームってなんだ。かつてのキャプテン姫野拓也の提言
短い時間での出場が続くがインパクトプレーで魅せるWTB石橋秀基
 チームは生き物だ。いい時だって悪い時だってある。そして、ひと口でチームといってもそれを形成する顔はさまざまなパーツから成り立っている。ラガッツという集合体、その最大の特長は「みんないいヤツ」ばかりだということ。時代が移ろい、選手が入れ替わっても不思議と受け継がれてきた文化である。
 それは時として、勝つ集団に変わろうとしている彼らの大きな足枷となる。思いやりや気遣いは、闘争の場にはある種不要な要素だ。やさしさは“罪”である。勝てないジレンマと確たるリーダーの不在、コミュニケーション減退の中でもう一度、選手たちの心を掻き立てるにはどのようなアプローチが必要なのか。
 かつての尊い記憶、2009年度シーズン。すべてを失ったどん底の集団を類まれなキャプテンシーで引っ張ったのがCTB姫野拓也だった。「あの時はみんな必死だった。自分自身、言葉でもプレーでも、常に先頭に立ってやるという思いだったし、勝手にみんなが動いてくれた」。単純比較は酷、それでも姫野はいまのチームならもっとやれると信じている。

 チームは誰のものか。ともすれば開幕3連敗で迎えたラガッツの4戦目。全勝の日野自動車戦は敵地で行われた。毎年続くアウェーの洗礼。リーグ戦を管轄する関東ラグビーフットボール協会は「ホームアンドアウェー方式」が大前提と云いながら、結局のところ暗黙の了解のもとに、前年度上位チームの意向が優先尊重される試合会場の決定方法には、何度でも異を唱えたい。今季、ラガッツはホームの狭山グラウンドで公式戦を一つも戦うことができない。
 悔しければ勝って上にいけよの世界。サポーターの方にも当面は不便をかけるが、どこの世界でも理不尽はつきもの。立ち向かうしかない。
 ここまで単独首位、次節に優勝候補最右翼の三菱重工相模原戦を控える相手は、メンバーをガラリと変更してきた。次に備えて手の内を見せない腹づもりか、スタメンは半分以上を入れ替えた。というよりむしろ主力を温存する布陣。随分とまぁ舐められたものだ。試合前の選手たちは怒りに震え、闘志を燃やしていた。「ラグビーの厳しさを教えてやるつもりだった。絶対にぶっ潰してやろうと思った」(姫野)。
 しかし、いざ試合が始まるとたちまち相手の猛攻に飲まれてしまう。前半5分に許した先制トライを皮切りに30分間で立て続けに5トライを奪われ0― 35。一発でタックルを外され、いるべきポジションに人がいない。とうとう、インゴールに集まった顔面蒼白の選手たちに対して、渡邉庸介FWコーチの巨大な雷が落ちた。

FB加藤祐太は2トライと気を吐いて量産態勢に突入
 トップリーグを知るSH岡健二は思った。「ここでジローさん(渡邉コーチ)に言わせたらダメ。選手たち自身で言葉を口にして、自分たちで切り替えないといけない部分」。もう一人、トップチームを経験してきたSO茂木大輔も「立ち上がりで取られて、そのまま行かれるのはどんな環境でラグビーをしていたとしても言い訳にしてはいけない部分」。
 ラガッツでトップリーグを戦ったベテランの姫野は、このチームの積年の課題に直面し、そして自身もが陥っている負のスパイラルの中でもがいていた。「フワッとした入りで相手にペースを握られる。先制パンチを食らう。何度も殴られて、もしくは誰かにガツンと言われてやっと目が覚め、エンジンがかかる。いい加減、この流れを断ち切らないと明日はない」。
 試合は出血による一時交替で入ったルーキーWTBの森井涼太が力強い突進を繰り返してワンサイドゲームに風穴を開けると36分、No.8杉本耀が近場を突破し反撃のトライ。ロスタイムにもFB加藤祐太がスピードあるランで前進、そのまま相手に捕まりながらもインゴールへダイブ。連続トライで前半を終えた。
 潮目が変わった。後半は立ち上がりからラガッツのペース。13分、杉本が2つ目のトライで21― 35。これで5連続トライを奪われた後、3連続トライを返して2本差に。奇跡の大逆転の予感すら感じさせた。しかし、粘り切れずここから4本を追加されたラガッツ。20分過ぎに連続攻撃からの鮮やかなトライでボーナスポイント獲得の4トライ目かと思われたが、一度は手を挙げた主審の判定がARからの申告で覆る不運も重なり、結局は勝ち点も奪えず。今節も大差をつけられての黒星を並べることとなった。

 チームを立て直せ。翌週17日の土曜日、シーズン中には異例ともいえる緊急ミーティングが開かれた。旗ふり役はリーダー役職のない一選手のWTB谷口崇人だった。「練習と規律と、大きく二つについて議論しました。まず練習、平日は夜9時10時からグラウンドに立つ。普通なら寝る準備を始める時間帯。仕事を終えた疲れた身体でグラウンドまできて、そのままじゃどうしたってフワッとしてしまう。まず、自分のスイッチを入れることを習慣化しようと。それを身に着けようと」(姫野)。
 練習のスイッチを切り替える件は、規律の話ともリンクしていった。挨拶、リアクション、片づけ、忘れ物。特に最初に練習場に来たときの挨拶が、その日トレーニングに100%で臨むためのスイッチになるという提案に、選手たちは真剣に聞き入った。「意識し続けることで、いい習慣を身に着けること。これまでも立ち上がりが悪い試合で試合前のアップの雰囲気を問題視する声が出ていたけど、そこは本来フォーカスすべきところじゃない。いかに普段からやれているか。試合は日々の練習の積み重ねでしかない」(姫野)
 元キャプテン、姫野は皆の前で語った。「今回リーダーじゃない人間が手を挙げてくれた。すごいパワーのいることだし、タカト(谷口)自身も営業の仕事になったばかりで大変な時期に、これだけの議論をするためには相当な準備があったと思う。この姿勢を尊敬すべきだし、全員が人任せにしないこと。自分で汗かくことをしていこう」。
「みんないいヤツ」の伝統は誇れるものだ。だがこの先、衝突を恐れては、活路は開けない。真っ向から向き合い、目をそらさず逃げず、なんとなく過ぎていくような事なかれ主義は排除したい。「全員でやらなきゃいけない。全員自分がキャプテンの気持ちを持つべきだし、でも本当のキャプテンやリーダーはやっぱりそれに甘えずに自覚を持ってやらなきゃいけない」(姫野)。キャプテンの益子仁紀、バイスキャプテンの撫佐俊介。新任の若いリーダーはもっとあがいてもがいて悩み苦しむべき。その先に成長があることを知っているからあえて厳しく突き放す。

「たとえば今年からモテ(茂木)が入って来て、いい意味でチームを荒らしてくれている。これまでを根底から覆すようなことを言う。でもそこでみんなが遠慮していたら意味がない。モテも必死でチームのためになろうと提言をくれる。昨年までプロのトップリーガーだったし、発言力もある。一目置く存在であることは確かだけど、それに対して周りも自分の意見を持って、議論を重ねていきたい」(姫野)。
 軋轢を恐れず、遠慮せず、年齢とかキャリアとか関係なしにそれぞれが意見を持つべきと姫野は語気を強める。「岡本さん(=信児ヘッドコーチ)やジローさんが云うことだって全部呑み込んでいいのか。ONE SHIPで戦う以上、もっと選手がぶつからないと。誰かが言ったことを受け入れるのは簡単。納得したら返事をすべきだし、発言した人が報われるようになってほしい。リアクションしないで不満をため込むことはアンフェア」。

 チームってなんだ。好きだろうが嫌いだろうが、縁あってセコムという会社の保有する狭山のグラウンドに集まり共に歩む戦友だ。何物にも代えがたい。一生涯の宝だ。
【小谷 健志】
NO.8 杉本 耀
NO.8 杉本 耀

普段は物静かだが、グラウンドに立つと豹変する楕円球の申し子。ギリギリのプレーを信条とし、ラグビーのルールが身体に染みついたプレーヤー。今季はチーム内で最も熾烈な第3列のポジション争いを繰り広げてきたが、開幕戦でリザーブに回り悔しさを露わにした。この日も2トライの活躍。「今シーズン、トライ王を目指す」と堂々宣言。2年目の新進気鋭なラインブレーカーが浮上の鍵を握る。