SECOM RUGGUTS

TOPページヘ

四、強肴 熱すぎる観戦記トップイーストリーグ

第2節
2015年9月20日(日) 12:00キックオフ
セコムラガッツ 22 1526 54 釜石シーウェーブス
728

明暗分けたベンチワーク。岡本信児ヘッドコーチが初陣で得た苦い教訓とは
不甲斐なさにブチ切れ、トライに雄叫び。濃密な喜怒哀楽が詰まるNo.8渡邉庸介
  ジャパンにはなれなかった。それでも前半27分、FL杉本耀の向こう見ずな突進が「ブライトンの奇跡」の再現を一瞬でも夢見させてくれたのだ。
 日本時間の2015年9月20日、この日は我が国のラグビーを語る上で忘れることのできない一日となった。イングランド郊外のブライトン、コミュニティースタジアムで行われたワールドカップ初戦。エディ・ジョーンズヘッドコーチ率いるジャパンは、過去2度の優勝を誇る南アフリカに34-32で後半インジュアリータイムの逆転勝利。世界中に大きな衝撃を走らせた。
 ラグビー界だけではない。日本のスポーツシーン全体をハッピーに塗り替えた偉業、それほどまでにとんでもないことをやってのけた日本代表。屈辱にまみれた歴史に終止符。2019年、2020年への期待が一気に膨らんだ白星だった。

  興奮と感動冷めやらぬままに朝が来て、太陽は天空遥かに昇り、4年後のワールドカップ開催都市の一つ、熊谷ではラガッツがリーグ優勝候補の一角、釜石シーウェイブスに挑んだ。小さくても屈強な男たちがリーグ随一のサイズを誇る鉄人への挑戦、構図は似ている。前半開始早々、ラガッツでは中盤でペナルティを犯し、自陣深くに進入を許す。ラインアウトからモールを組まれると一気に押し込まれ先制トライ。開始まだ2分のことだった。
「自分たちのラグビーを信じて戦えば、必ずチャンスは来る」(益子仁紀キャプテン)。我慢に我慢を重ね、全員で守り全員で攻める。すると15分、願ってもない場面が訪れる。敵陣でラックを連取してアタックを仕掛けていく。一対一でも前に出られるのは昨年までと比べても立派な成長ととらえたい。順目に、逆目にボールを動かし、最後はベテランCTB姫野拓也。ずらしてタックルをヒットさせず、半歩だけ前に出てそこから状態を反転させ、低い姿勢で前進。そのままゴール左へ右手を伸ばしグラウディング。これぞ日本が誇る技と匠の伝統工芸。鮮やかな理詰めのアタックで同点に追いつく。

 25分には密集でペナルティを誘発し、本郷伸太郎のPGで10-7と勝ち越し。そして直後にビッグプレーが生まれた。牙を剥いて襲い掛かってくる釜石、前がかりに出てパスをつないでくる。杉本は狙っていた。「ギリギリのところで勝負したい。まともにやっていても敵わない相手には、立ち向かう強い気持ちと何かをひっくり返すパワーが必要」(杉本)。
 絶妙なタイミングで飛び出すと相手のパスをインターセプトし、独走。バックスの選手顔負けのスピードでひた走る。途中、すっと速度を緩めた。「ゴールラインまで走り切る自信がなかったので、足の速い人にボールを渡そうと。でもサポートが誰もいなかった」(杉本)。このまま行くしかない。再び加速する。スピード自慢の釜石バックス陣に追われる。「捕まっても倒れずに味方が来るまで一秒でも長く時間を稼ごう」。そんなことを考えながら走り続けた。いつの間にかトライしていた。


FB加藤祐太は2トライと気を吐いて量産態勢に突入
 60m独走トライ。15-7、観衆の度肝を抜いた。「番狂わせにはインターセプトとか、いつもなら起こりえないプレーがある。ここまでは勝つにはこれしかないという理想的な展開だった」(山賀敦之総監督)。LO西川匠とSO貴島良太が杉本に抱きつく。少し遅れてSH向井康洋が駆け寄ってきた。「バースデートライおめでとう」。その時、杉本は今日が自分の24歳の誕生日だったことを思い出した──
 入社2年目のシーズン。胸に去来するもの、もっと試合に出たい。ルーキーイヤーは同期入社組の中でただ一人、開幕スタメンを勝ち取った。だが、それだけだった。2戦目以降はベンチを温める日々。毎試合出場機会は与えられたが、短時間でどうやってアピールすればチームに貢献できるだろうか。そう思って一か八かのプレーを繰り出しては不用意なペナルティで試合の流れを断った。周囲からはどこか、身勝手にすら映った。  元々口数が少なく、意思疎通に時間を要するタイプ。誰よりラグビーが好きで熱いモノを持っているのに、理解されるためには自分自身が変わる必要があった。
「ラガッツは熱い選手ばかりなので、一度一緒にプレーすると好きになってしまう最高のチーム。連続夜勤や24時間勤務で疲れているとき、同期7人で仲間を助け合い、励まし合った。そこで仲間意識が強くなったと思います。グラウンドだけじゃなく、どんなときも励まし合える意識が強い。そこもラガッツが好きなところのひとつです」(杉本)。

 迎えた今季初スタメン。「いつもより出場時間が長いので、得点に絡めるような動きをしたい」。それをいきなり体現してみせた。春からNo.8での出場が続いていたが「出られるならポジションにはこだわらないけど、エイトとしての資質、身体の大きさでは劣るのでFLの方がよいかなと。ブレイクダウンでも思い切った勝負ができる」。昨季はきちんと食事も採れない日もあり、体重の現状維持すら困難だった。今春に職種変更で夜勤から解放されると、とたんに動きにキレも出てきた。失ったウエイトもすぐに取り戻した。
 杉本の活躍でリードを拡げたラガッツ、奇跡に向けた残り50分の戦い。だが百戦錬磨の元ジャパン戦士は冷静に試合を運んできた。「あのトライで逆にラガッツの選手たちが浮足立っているように思えた。守ろうか、攻めようか。どうしようかという迷いが見えた」(釜石シーウェイブス・HO松原裕司選手)。やられたら嫌なことをやる。前半ラスト10分、釜石は密集戦で圧力をかけてきた。重く激しく近場を攻め、ラインアウトからはモールを押し込む。立て続けの3トライでラガッツの勢いをへし折った。
 前々回大会のワールドカップに出場した36歳の松原、そして44歳の鉄人、LO伊藤剛臣は2大会で桜のジャージーを纏った。二人合わせて85キャップ、平均年齢40歳がラガッツの青さを老獪に押しつぶした。後半は徹底して自陣ゴール前に釘づけにされ、ラガッツはペースを握れないまま、点差だけを離された。後半43分に生まれたFB加藤祐太のトライ。ラガッツは自陣から展開し、ジャパン顔負けのシェイプでボールをスペースに運び、ミスなくフェイズを重ねた。これだけのポテンシャルがあれば、次も十分に戦える。むしろ、トップイーストのどの相手にも立ち向かえることを証明してみせた。

 試合に負けた。初戦に続き、見せ場を作ったが勝ち点0での黒星。杉本のバースデートライの味はほろ苦かった。「試合の前日までは誕生日にスタメンだしがんばろうと思っていたけど、アップが始まってからは誕生日のことなんて完全に忘れていました。でも、わざわざ大阪から見に来てくれた両親の前でトライをプレゼントできてよかった」(杉本)。
 応援してくれる人たちへ、心からありがとう。いまなら、きっとそう言える。
【小谷 健志】
FL 森 耕太郎
FL 森 耕太郎

昨季からレギュラーに定着。とどまることを知らない人並み外れた体力と精神力でどんな相手にも臆することなくぶつかっていく。FWの中での発言力も増しており、ラガッツにとって欠かせない存在となった。「耕太郎は心優しく普段はおとなしいけど、試合になると体張ってひたむきにファイトできる。男から見てもかっこええヤツ」(WTB谷口崇人)。