【講演会レポート】子供の事故を防ぐための病院での取り組み

セコムの舟生です。

子供の事故を防ぐための病院での取り組み子供と一緒に生活をしていると、ヒヤリとすることがあります。例えば、お風呂で滑ってしまった、大人向けの食べ物・飲み物を口に入れそうになった、ベッドやイスなど、遊具でない物でふざけて遊んでいた...など。

事故を未然に防いで「危ないところだった!」で済めば良いのですが、子供が負傷し、病院に運ばれるケースが起きています。そして残念なことに、子供(1歳~19歳)の死亡原因の第1位は、「不慮の事故」なのです(2008年厚生労働省「人口動態統計」)。

先月、子供の事故を予防するための看護師や研究者の取り組みを紹介する講演会に参加しましたので、今回はそのレポートをお届けします。

病院で事故に関する情報を集め、世の中の製品づくりに生かしていく取り組み。ここに子供とより安全に毎日を過ごすためのヒントがありました。

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この講演会は、国立成育医療センターとキッズデザイン協議会の主催によるもので、「事故情報収集の現場から子どもたちの安全・安心に資する製品を考える」というテーマで2009年12月18日、国立成育医療センター(東京都世田谷区)で催されました。


病院で子供の事故に関する情報を集める取り組み
国立成育医療センターは、成育医療(小児医療、母性・父性医療および関連・境界領域を包括する医療)を担う病院として毎年3万人ほどの救急患者を受け入れるほか、研究所としての機能も併せ持った医療機関です。安心して子供を生み育てるための医療を提供しています。

子供の事故を防ぐための病院での取り組みはじめに、この病院の救急センターで副看護師長を務められている林看護師から「医療機関における子供の事故情報収集の取り組み」についてお話がありました。

林看護師は、2006年より傷害情報収集事業にかかわり、現在は救急外来で傷害情報の聞き取りや傷害予防指導を担当されています。

国立成育医療センターの救急センターでは、不慮の事故による外傷で救急外来を受診したお子さんの保護者から、子供の事故についての情報収集を行っています。

例えば、お子さんが階段からの転落でケガをした場合、「いつ」「どこで」「階段から落ちた」だけではなく、「どのくらいの発達段階のお子さんが」「階段のどのあたりからどのように落ちたのか」「身体のどの部分から落ちたか」「落ちた場所は床材なのかコンクリートなのか」「何をしていて落ちたのか」「誰かが一緒にいたのか」など、できるだけ具体的に事故当時の状況を聞くようにされているそうです。

事故に関する状況を収集することで、「発生頻度が高い事故」「増加している事故」「最近、起きている事故」といった傾向をつかめることがあるといいます。そして、その事故の背景には、特定の状況(製品や製品の使用状況、子供の年齢など)が関係している場合があるのです。

子供の場合、「昨日までできなかったことが、今日はできてしまう」といったこともよくあります。その事故が、子供の発達段階によって起きた事故なのか、物や建物の構造に問題があって起きた事故なのか、それとも双方の理由が混ざり合って起きた事故なのかも、整理しながら把握していくようにしているそうです。

林さんによると、聞き取りのなかで大切なのは、子供の発達段階を確認して、起こった事故をイメージ化することだそうです。「この年齢だから、これくらいはできる(できない)だろう」という推測ではなくて、「事故当時、この子供ができた(できなかった)かどうか」をきちんと確認して、イメージすることが大切なのだそうです。

また、事故情報の聞き取りを行いながら、保護者の方へ、事故予防の対策や注意喚起なども行っていらっしゃるとのことでした。


事故の再発を防ぐ取り組みと実際の事故事例について
子供の事故を防ぐための病院での取り組み林看護師のお話に続いて、同じく成育医療センターで2006年より傷害情報収集事業に取り組み、現在は外来副看護師長を務められている西海看護師が、成育医療センターで行っている「事故防止プログラム」と、玩具や身近な生活用品が原因と思われる子供の事故事例についてお話されました。

*事故防止プログラムの実施について
成育医療センターでは、小さな子供の家庭内事故の再発を防止するための取り組みとして、「事故防止プログラム」を実施しているそうです。

これは、主には外傷で来院された方に、子供の発達段階に伴う事故や外傷についての情報提供をして次なる事故を防ぐ目的で、養育者と生活環境の中のリスクを話し合いながら、具体的な対策を検討する事業です。

子供の事故として多いものは以下のような事例だそうです。
・転落の事故(住宅のベランダからの転落、階段からの転落など)
・溺水の事故(浴槽への転落、溺れなど)
・台所での事故(火傷や外傷、誤飲・誤嚥(ごえん)など)
・誤飲・誤嚥の事故(戸棚を開けたり、落ちている物を拾ったりして、口に入れてしまうなど)
・火傷の事故(とくに冬場。ストーブやファンヒーターに触ってしまうなど)

生活のなかでのリスクや対策を指導するにあたっては、たとえば「ベランダからの転落」について指導するときには、「子供がベランダに出られないようにしましょう」ではなく、現場の写真や見取り図を提供してもらい、実際に危険な箇所を指摘して対策を考えるなど、具体的なアドバイスを心がけているそうです。

*実際の事故事例について
西海さんから、身の回りの製品が関わった事故の事例を紹介してくださいました。

おむつ交換台
⇒デパートや駅のトイレなどに設置されているおむつ交換台から、乳児が転落

洗濯機、風呂のフタ、台所
⇒洗濯機や風呂のフタの上、台所の作業台の上に赤ちゃんを置いて、転落

風呂給湯器のパネル
⇒「湯張り」の横にあった「足し湯」のボタンを誤って押したことで、80度の熱湯が湯船に給湯され、入浴した子供が熱傷を負った

温泉たまご器
⇒テーブルの上で使用しているときに子供が触って転倒させ、中の熱湯がこぼれて火傷

ロフト用階段(はしご)
⇒3歳児が転落し頭蓋骨骨折
10カ月女児が階段をはい上がって転落し頭蓋骨骨折

階段
⇒手すりのない階段をよじ登って10カ月の乳児が転落
⇒吹き抜けの上部の手すりの支柱のすき間からのぞき込んだ子供が転落

食玩(お菓子や飲料のおまけとして付く玩具)
⇒3歳のきょうだい児が放置した食玩の部品を、9カ月乳児が口に入れて気管に誤嚥

これらの事故事例からみてもわかるように、「消費者はメーカー側が意図したように製品を使うとは限らない。子供がいる家庭ではこんな風に使われるかもしれない、ということを企業も想像して製品開発に生かしてほしい」と西海さんはおっしゃっていました。また、もっと子供の生態を知ってもらいたいそうです。子供は好奇心が旺盛です。「もしかしたら、こんな使われ方をしてしまうのではないか...」といったような想像力が、企業側には必要なのかもしれない、とおっしゃっていました。


事故情報をより安全な製品の開発に活かすために
子供の事故を防ぐための病院での取り組み最後に、「企業はいかに事故情報を製品開発に活かせるか」というテーマで、産業技術総合研究所 西田主任研究員が講演されました。

西田さんは2003年から子供の事故予防工学の研究に携わり、2007年には経産省委託事業「安全知識循環型社会構築事業」を国立成育医療センター、キッズデザイン協議会と協力して推進されています。

子供には危険を回避する能力が備わっています。子供が成長していく上で、ある程度のリスク(転んでヒザをすりむいた、など)は必要であり、そうした「リスク」を経験することで成長する部分もある、と西田さんは語ります。しかし、子供が死にいたる危険とか、重い後遺症が残るような危険からは何も得るものはありません。そこで、そういった危険を「ハザード」と呼び、ハザードをなくすような取り組みを行っているそうです。

そのためには、病院から事故情報のデータを集め、それらのデータを調べていくことが重要であるとおっしゃっていました。そしてゆくゆくは、思いっきり遊べる環境ができたらいいなと、西田さんは考えているそうです。

*事故情報を製品開発に活かす
産業技術総合研究所では、身の回りにある製品の危険を軽減することを目的に、成育医療センターで集めた事故情報のデータをもとに、身の回りの製品事故と月齢の関係の事故統計を出してみたそうです。

そのデータの一つに、炊飯器から出る高温の水蒸気によって子供が火傷をする事故が発生しているというものがありました。このデータをある大手電機メーカーに知らせたところ、炊飯器から出る高温の水蒸気を約50度まで冷まして排出するように工夫を凝らした、新しいIH炊飯器ができあがったそうです。

同じような事故が毎年のように繰り返し起こるということは、大多数の子供の事故は予見が可能であり、過去の事故事例を学ぶことによって、事故を予防し、制御していく活動が先進国で進んでいるそうです。

事故の予防には、過去の事故情報を収集し事故事例を学ぶことを通じて、「保護者や子供への教育」「法律による規制」「環境・製品デザインの改善」という3つのアプローチをバランス良く使っていくことが大切とのことですが、特に、「環境・製品デザインの改善」のアプローチが重要であるとWHO(世界保健機関)は指摘しているそうです。

これからは、企業や業界全体が、企業独自で得たクレーム情報や事故情報に加え、今回、紹介したような病院で収集された子供の事故や危険に関する情報を共有化していくことが重要であるとおっしゃっていました。そして、そのような情報に基づいて、環境・製品のデザインやリスクを評価し、改善するための仕組みづくりも大切になってくるというお話でした。

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産業技術総合研究所では、「キッズデザインの輪」というホームページに事故情報のデータや、家庭内事故の実例の動画を紹介されています。

次回は、講演会を終えた林看護師・西海看護師にインタビューをしてきましたので、そのレポートをしたいと思います。1月21日(木)にアップする予定ですよ。





2010年1月19日(火)

カテゴリー: インタビュー・座談会

プロフィール

舟生 岳夫

セコム株式会社
IS研究所 所属

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