セコム IS研究所
セコムウェブサイト セコムウェブサイト
IS研究所について 研究紹介 対外活動 研究員紹介 採用情報


タイトル - 医療連携支援システムの研究

 近年、地域医療連携の重要性が増す中、多くの病院は地域医療連携に関わる部署を新設し、周辺医療機関と協力して医療サービスを提供していく体制をとっている。

 特に、地域の医療機関情報の管理や患者の持参する診療情報提供書(いわゆる紹介状)の管理は、連携担当部署の業務に大きな比重を占めるため、これらの業務の効率化が求められている。また、蓄積されていく情報の有効活用も大きな課題の一つである。

 本研究では、業務効率化のための医療機関情報管理及び診療情報提供書管理のためのシステムを導入し、情報の有効活用の一つとして地域の患者の受診動態(流れ)を抽出できることを示した。具体的には、蓄積された診療情報提供書の管理情報とDPC(Diagnosis Procedure Combination)のデータを組み合わせることでMDC(Major Diagnosis Category)分類の分布を求めた。また、MDC分類のうち循環器系疾患に着目し、その中でのDPC傷病分類の分布を求めた。最後に、紹介数の多いDPC傷病分類について、どの地区の医療機関からの紹介が多いかを分析した。その結果、DPC傷病分類により紹介元医療機関の地区の分布が異なることが示唆された。



目次
 

緒論
  目的
  方法
  結果
  考察
 

結論



緒論

 厚生労働省が医療機関の機能分化を通した医療連携体制を構築することを現在政策として推し進めており、各医療機関がこの要求に対してどのように応えるかは難しい問題である。この医療機関の機能分化要求に対し、病院において外来患者の患者動態分析を行うことや、入院患者やDPC(Diagnosis Procedure Combination)対象患者についても患者動態分析を行うことが提案されている。

 加えて、自院が担うべき機能を把握するために、外部医療機関から患者紹介の時に用いられる診療情報提供書を利用することが考えられる。診療情報提供書は単体で用いると、(1)紹介元医療機関の分布、(2)紹介元医療機関に基づく地区別患者分布、(3)診療情報提供書に対応する患者の自院担当診療科の分布を把握でき、自院を中心とした地域での患者動態を分析できる。また、急性期医療や入院医療に特化する病院では入院患者の在院日数短縮が必要であり、このために自院を中心とした施設間ネットワークの構築が必須である。この点からも、今後医療連携を推進するうえで、紹介患者の紹介元医療機関を把握することが必要である。

目的

 本研究では、DPCを取得している急性期病院において、診療情報提供書のデータとDPC様式1データを組み合わせ、患者動態を把握するためのデータを取得できるか探ることを目的とする。具体的には、紹介患者数の多い上位2つのDPC傷病分類と、紹介患者の紹介元医療機関の二次医療圏・地区情報を組み合わせ、患者動態が傷病によって異なるか否かを検証する。

方法

<システム概要>

 医療連携担当部署の業務効率化のため導入した診療情報提供書を管理するシステムは、紹介患者が来院した際に持参している診療情報提供書を元に、日時(診療情報提供書作成日、診療日など)、患者(ID、氏名など)、紹介元(医療機関名、診療科、医師)、当院担当(診療科、医師)、紹介目的(外来、入院)の情報を管理し、紹介元に基づく統計分布、紹介元医療機関に基づく地区別の統計分布、病院種別に基づく統計分布を出力することが可能である。また、病院より逆紹介する患者に渡す診療情報提供書の逆紹介先情報・目的も同様に管理できる。加えて、本システムでは紹介元・逆紹介先となる医療機関の住所情報・地区情報、医療機関に所属する医師やスタッフの情報を登録可能であり、これに基づく統計出力が可能である。

<対象データと分析手法>

 診療情報提供書を管理するシステムを利用して診療情報提供書のデータを取得した。医療機関およびDPCデータとして、札幌市手稲区にある手稲渓仁会病院(524床)での2006年7月1日〜2006年9月30日のデータを利用した。紹介患者の診療情報提供書データ 3564件、逆紹介患者の診療情報提供書データ 2018件、DPC傷病分類コードが含まれる様式1(退院日基準) 3579件 であった。以下、紹介は他院から手稲渓仁会病院に患者が紹介されることを、逆紹介は手稲渓仁会病院から他院に患者を紹介することをそれぞれ意味するものとする。

 SHA-1アルゴリズムにより患者IDを匿名化した文字列が同一となる診療情報提供書データと様式1とを紐付けし、紹介患者-様式1のデータ、様式1-逆紹介患者のデータ、紹介患者-様式1-逆紹介患者のデータを作成する。この際、同一患者が複数回入院しているケースがあるが、この場合は、紹介患者であれば紹介日と入院日、逆紹介患者であれば退院日と逆紹介日の差が最小になるように紐付けを行う。この紐付けにより、紹介データ・逆紹介データと診療情報提供書と組み合わせたデータ (1)紹介患者-様式1 1832件 (2)様式1-逆紹介患者 691件 (3)紹介患者-DPCデータ様式1-逆紹介患者 415件が得られた。これら3種類のデータについて、紹介元の医療機関の地区情報、MDC分類(DPCコードの先頭2桁)およびDPC傷病分類コード(DPCコードの先頭6桁)を用い、紹介患者・逆紹介患者の相手先医療機関の二次医療圏情報およびMDC分類を取得する。

 紹介患者数の多い上位2つのDPC傷病分類について、地域特性を見る。地域特性を見る際に用いる地区情報として、診療情報提供書管理システムに登録されている患者の紹介・逆紹介の相手先となる医療機関の属する地区と、二次医療圏分類の2つを用いる。

 手稲渓仁会病院における医療機関の地区分類は、(1)札幌市内各区(手稲、西、北、東、中央、豊平、清田、白石、南、厚別)、(2)札幌市近郊(江別市、北広島市、恵庭市、千歳市)、(3)石狩市、石狩支庁、(4)小樽市、(5)後志支庁(小樽市を除く)、(6)空知支庁、胆振支庁、日高支庁、(7)その他(道南、道東、道北、道外)である。なお、(5)については、今後の混乱を防ぐため、後志(小樽除く)と表記する。二次医療圏としては、(1)(2)(3)が札幌二次医療圏、(4)(5)が後志二次医療圏として対応づく。今回は(6)(7)に対応するものとして、「その他」とする。

結果

 <DPC傷病分類コードに基づく紹介元地域の分類>

 DPC傷病分類コードで最も短期入院紹介患者数の多かった上位2傷病について、どの地区から紹介が多いかを分析する。最も短期入院紹介患者の多かった狭心症・慢性虚血性心疾患に関して、手稲渓仁会病院で用いられている地区分類を用いて図示した結果を図1に示す。二次医療圏、手稲渓仁会病院で用いられている地区分類の患者分布表を表1に示す。


表 1 狭心症・慢性虚血性心疾患における紹介患者二次医療圏・地区分布

二次医療圏/比較群

狭心症・慢性虚血性心疾患

それ以外
札幌
65
1015
後志
21
271
その他
13
130


地区/比較群

狭心症・慢性虚血性心疾患

それ以外
札幌
65
1015
小樽
4
179
後志(小樽除く)
17
92
その他
13
130


図1 狭心症・慢性虚血性心疾患における紹介患者地区分布(病院地区別分布)

図 1 狭心症・慢性虚血性心疾患における紹介患者地区分布(病院地区別分布)



 札幌二次医療圏と後志二次医療圏において、紹介患者のDPC傷病コードが狭心症・慢性虚血性心疾患であるか否かと、地区分類が独立か否かを検証するため、表1を用いて検定を行う。帰無仮説「二次医療圏による地区分類と狭心症・慢性虚血性心疾患か否かが独立か」についてカイ2乗検定を行った結果、有意水準5%で採択される(0.250<P<0.50)。一方で、帰無仮説「病院による地区分類と狭心症・慢性虚血性心疾患と病院全体での紹介患者数分布が独立か」についてカイ2乗検定を行うと、有意水準5%で棄却される(P<0.005)。

 続いて全体で2番目に紹介が多かった疾患は、「白内障・水晶体の疾患」であった。表2、図2に白内障・水晶体の疾患の二次医療圏別分布・地区分布を示す。白内障・水晶体の疾患では70件の紹介中、57件の紹介が札幌二次医療圏内からのものであった。

 表2で、札幌二次医療圏の紹介のうち38件は、手稲渓仁会病院の所在地である手稲区内の医療機関からの紹介であった。

表 2 白内障・水晶体の疾患における二次医療圏・地区分布

二次医療圏/比較群

白内障・水晶体の疾患

それ以外
札幌
57
1023
後志
7
285
その他
6
137


地区/比較群

白内障・水晶体の疾患

それ以外
札幌
57
1023
小樽
4
179
後志(小樽除く)
3
106
その他
6
137




図2 白内障・水晶体の疾患における紹介患者地区分布(病院地区別分布)

図 2 白内障・水晶体の疾患における紹介患者地区分布(病院地区別分布)


 白内障・水晶体の疾患に関して、狭心症・慢性虚血性疾患と同様の分析を行う。札幌二次医療圏と後志二次医療圏において、紹介患者のDPC傷病コードが白内障・水晶体の疾患であるか否かと、地区分類が独立か否かを表2を用いて検証する。「二次医療圏による地区分類と白内障・水晶体の疾患か否かが独立か」の帰無仮説をカイ2乗検定を行うと、有意水準5%で棄却される(0.025<P<0.050)。一方で帰無仮説「病院による地区分類と白内障・水晶体の疾患とが独立か」をカイ2乗検定すると、有意水準5%で採択される(0.050<P<0.100)。

考察

 表1および表2の結果から、札幌・後志二次医療圏においては、二次医療圏だけで患者数を分析しただけでは差違がないが、二次医療圏をさらに細かく分類した地区に基づき分析すると傷病ごとに患者動態が異なる結果が得られていることが分かる。

 狭心症・慢性虚血性心疾患で紹介患者の多い後志二次医療圏における人口分布との比較を行う。平成18年9月末日現在では、後志二次医療圏(後志支庁全体)の人口は249033人、うち小樽市141418人、後志(小樽除く)(小樽市を除く後志支庁全体)で107615人である。表3に疾患毎の短期入院紹介患者数と人口分布を示す。白内障・水晶体の疾患では、病院の分類による地区の人口と患者数の比率がほぼ一致しているが、狭心症・慢性虚血性心疾患では大きく異なることがわかる。


表 3 後志二次医療圏における短期入院紹介患者数分布と人口分布の比較

狭心症・慢性虚血性心疾患

それ以外
小樽
4
141418
後志(小樽除く)
17
107615


白内障・水晶体の疾患

それ以外
小樽
4
141418
後志(小樽除く)
3
107615




 狭心症・慢性虚血性心疾患では、後志(小樽除く)と手稲渓仁会病院の距離が、小樽市と手稲渓仁会病院の距離より遠いのにもかかわらず、小樽市にある循環器科を標榜する22の医療機関を通り越して患者が紹介されている。

 また、白内障・水晶体の疾患については、手稲区からの紹介が70件中38件であり、他地区からの紹介が少ないことから、傷病により患者動態の差がある可能性が示唆される。

 狭心症・慢性虚血性心疾患の紹介が一番多かったことの理由として、(1)手稲渓仁会病院が救急救命センターを有し、かつ当該疾患が救急の交絡因子による影響が大きいと思われること、(2)地理的要因として、手稲渓仁会病院が札幌二次医療圏の西端かつ札幌市中心部と小樽市中心部の中間に位置し、駅に近いことから、小樽・後志(小樽除く)から国道5号線やJRを利用してアクセスしやすいこと、などが挙げられる。これらの因子がどの程度作用しているかについては、今後の課題としたい。

 医療機関の配置に関して、図1および図2を参照すると、病院地区分類における札幌市東部の区(東、白石、厚別、豊平、清田)からの紹介が少ないのは、手稲渓仁会病院の東部には、市立札幌病院や大学病院といった医療機関が存在し、札幌二次医療圏では選択肢としてこれらの医療機関にかかることもでき、医療機関の配置が患者動態に影響を及ぼしていると推測される。

 ここで過去のデータを用いて年間受療患者数を比較する。平成17年度の手稲渓仁会病院の狭心症・慢性虚血性心疾患の患者数と他の札幌二次医療圏におけるDPC適用病院・DPC試行的適用病院の患者数を比較すると、手稲渓仁会病院は札幌二次医療圏内では231人で2番目に多く、1番多い病院は北海道社会保険病院で284人であった。北海道社会保険病院は札幌市東部の豊平区に位置することから、札幌市東部の狭心症・慢性虚血性心疾患の患者は北海道社会保険病院に受療していると推測される。同一のデータを用いて白内障・水晶体の疾患についても比較を行うと、手稲渓仁会病院が176人と札幌二次医療圏内で1番多かった。また、札幌市中央部に位置する札幌医科大学病院では87人、札幌市中央よりやや北に位置する北海道大学病院では67人、札幌市の東側に位置する札幌社会保険総合病院では73人であり、図2から手稲渓仁会病院の紹介患者は、札幌市西部の手稲区や西区が多いことを考えると、他区の患者は主としてこれら3病院に受療していると推測される。

 紹介患者・DPC傷病分類の紹介患者の分布に関しては定量的に求めることができるが、求めたデータをどう解釈するかは、自院が重点的に資源を投入するDPC傷病分類をどこに設定するかで異なってくる。しかし、入院した紹介患者、あるいは退院した逆紹介患者を分析することにより、個々の医療機関に対しどのような施策を行えばよいか判別でき、病院経営上、よりよい病診連携の関係を構築することが可能である。たとえば、あるDPC傷病分類において紹介が多い病院に対して、その傷病のMDC分類に関連した患者も紹介をしてもらえるように働きかけるといった施策が考えられる。

 また、このようなデータを自院での担当医師ごとに分析することにより、医師間でどのような信頼関係が構築されているかを把握することができる。さらに地域全体でこのようなデータを把握することにより、医療圏分析にも利用可能であると考えられる。

 今後地域医療の立場から傷病に基づく医療連携ネットワークをどのように構築していくかについては、地域ごとの特徴があり一概に言えないが、地方部においては医療機関が集約化されていくことが予測される。この状況下で、病院が担う位置づけを把握するための分析手法として、本研究で提案した手法を用いることができる。本研究では診療情報提供書とDPCデータを組み合わせて利用したが、診療情報提供書と電子カルテやレセプト等のシステムと組み合わせ、病名をとることにより同様のことが可能である。

結論

 本研究では、診療情報提供書のデータとDPCデータと組み合わせ、短期入院紹介患者に関する複数のデータを取得できた。また、紹介患者の紹介元医療機関と傷病分類の組み合わせによるデータを用い、傷病分類によって紹介元医療機関の地区に差が生じることが示唆された。このことから、今後疾病ごとに応じて医療圏を捉え、より適切な施策を検討できる可能性が示された。

 病院を社会資源ととらえ、地域のなかでどのような位置づけにあるかを把握する上で、このようなデータを把握することが今後必要となっていくと考えられる。

 

  一覧へ戻る
ページトップへ