開催レポート
第22回:濾過/加速された価値だけで生きる?~フィルター化とタイパ社会の光と影

今回は、「濾過/加速された価値だけで生きる?~フィルター化とタイパ社会の光と影」をテーマに、効率性/タイパ重視の現代における、価値観の変化と未来への期待についてデザインワークショップ形式でディスカッションを開催しました。

情報爆発の時代を経て、情報収集の最適化(キュレーション/アルゴリズム:フィルター化)や消費の最適化(倍速再生/ヤマ場/要約だけ:タイムパフォーマンス/タイパ)など、情報との新しい付き合い方がうまれています。“多様性と自分らしさ”という現代的な価値観のなかでのフィルター化、あるいは、「価格が下がれば上がるコスパ」時代に対して「加速すれば上がるタイパ」時代の満足感や幸福さは、どうなっていくのか。効率性/タイパ重視の現代における、価値観の変化と未来への期待を探るのが狙いです。

話題提供では、2022年のベストセラー『映画を早送りで観る人たち ファスト映画・ネタバレ――コンテンツ消費の現在形』』(光文社新書)の著者・稲田豊史さんより、なぜフィルター化とタイパが進むのか、著書や取材から見えたその背景や考察などをインプットいただきました。
続くワークショップでは、多様な業種・業界で活躍する参加者が、それぞれの視点から「フィルター化やタイパが求められる根本的な背景、およびこうした現象がもたらす新たな価値や不安」について互いの価値観を共有しながら分野横断的に対話を深めました。新たな価値を生み出す新機軸なサービスや、影の部分を解消する仕組みなど、価値観や課題の本質を紐解きながら、未来の社会に繋がるアイデアに議論が展開しました。

開催日時

2023年2月28日(火) 17:00~20:00

話題提供

  • ライター、コラムニスト、編集者
    稲田 豊史

    映画配給会社および出版社で、ゲーム業界誌の編集記者、DVD業界誌の編集長、書籍編集者を経て独立。主な分野は映画をはじめとしたポップカルチャー、エンターテインメントビジネス、離婚問題など。藤子・F・不二雄、80~90年代文化も得意。コラムや書籍の執筆を中心に、書籍・ムック等の企画と編集、ブックライティング、インタビュー、対談構成、各種店舗取材、イベント司会進行なども行う。主な著書に『映画を早送りで観る人たち ファスト映画・ネタバレ――コンテンツ消費の現在形』(光文社新書)、『オトメゴコロスタディーズ フィクションから学ぶ現代女子事情』(サイゾー)、『「こち亀」社会論 超一級の文化史料を読み解く』(イースト・プレス)、『ぼくたちの離婚』(角川新書)、『ドラがたり のび太系男子と藤子・F・不二雄の時代』(PLANETS)、『セーラームーン世代の社会論』(すばる舎リンケージ)がある。

総合ファシリテーター

  • セコム株式会社 本社オープンイノベーション推進担当 リーダー / セコムオープンラボ総合ファシリテーター
    沙魚川 久史

    セコムでは、研究開発や科学研究助成事業責任者を経て、現在オープンイノベーションチームを率い、各種の新価値探索から「SECOM カンタービレ」「バーチャル警備システム」など協働商品開発まで担う。イノベーション推進に向け「セコムオープンラボ」を主宰、挑戦的ブランド「SECOM DESIGN FACTORY」を立ち上げて展開中。本社企画部担当課長を兼任。社外では、東京理科大学客員准教授を経てフェロー、大学や国立研究開発法人、産学官コンソーシアムなどでも活動。主な著書に『知的財産イノベーション研究の展望(第5章)』(白桃書房)など。

当日の模様

今回は、「濾過/加速された価値だけで生きる?~フィルター化とタイパ社会の光と影」と題して、金融や情報通信を始めとした様々な業種の産業界中心の参加者約100名とともにデザインワークショップ形式でアイデアディスカッションを開催しました。

「フィルター化」とは、ウェブの行動・検索履歴などの情報をアルゴリズムが分析して個々人の趣向に最適化されること、「タイパ」とは時間対効果を意味するタイムパフォーマンスの略語で、動画の倍速視聴など時短を考慮する際に使われる言葉です。情報爆発する現代で進む、この2つのキーワードの光と影に焦点を当て、多様な価値観を取り入れながら、未来に繋がる新たな活用法を見出すのが今回の目的です。

冒頭、イントロダクションでは、多様な視座による価値観の探索とコミュニケーションを重視した「セコムの“共想”」と、セコムオープンラボが持つ意味、オープンイノベーションによって結実した新たなサービスなどをご紹介。フィルター化やタイパを巡る幾つかの切り口と、今回のテーマに込めた背景についてフロアにインプットしました。

今回は、「濾過/加速された価値だけで生きる?~フィルター化とタイパ社会の光と影」というテーマにあわせ、2022年のベストセラー『映画を早送りで観る人たち』の著者・稲田豊史さんより話題提供をいただきました。なぜタイパ志向が広がるのか、なぜフィルター化が進行するのか。取材から見えたその背景や考察などについて、実際にインタビューした結果や身近なケースを交えて紹介がありました。

続くワークショップでは、48企業/官庁や大学から約100名の参加者が、14グループに分かれてそれぞれの視座からディスカッション。ワークタイムを細かく区切り、議題を変えながら、フィルター化とタイパが求められる背景、メリット、デメリットについて、様々な視座・価値観・専門性により議論が展開されました。日々のお困りごとや感情の変化を可視化しつつ、これから必要になってくる新たなニーズをもとにアイデア提案へと昇華させるアプローチです。

ワークショップの前半戦は、フィルター化とタイパに纏わる課題探索の時間帯です。フィルター化とタイパが求められる背景、メリット、デメリットについてそれぞれの主観や想いといった視点から課題を掘り下げ、発散させながら議論を進めます。
フィルター化やタイパは昨今のライフスタイルにおいて当たり前のものになりつつある一方で、それに纏わる感情や価値観の変化を見つめなおすことは意外に新鮮な体験です。背景にある感情や日ごろ感じるもやもや感などの非言語的メッセージを、多彩な切り口から可視化していきました。

今回の軽食には、テーマである「タイパ」というキーワードにあわせて、栄養素とおいしさのバランスが整った日清食品の「完全メシ グリーンスムージー」「完全メシ バナナスムージー」や、作業をしながら片手で食べることができるミニサンドイッチやミニバーガーなどを多数ご用意。コミュニケーションが進む議論の場を演出しました。
途中、コーヒーブレイクタイムには、参加者が大きく移動して他グループと交流し、更なる多様性を取り込みながら、マッシュアップを進めました。

コーヒーブレイクを挟んだ後のワークショップ後半戦では、前半で出てきた背景やメリット・デメリットを参考にしながら、グループ毎にフィルター化・タイパの先にあるニーズや期待について、新しいアイデアを提案。影の部分を解消する仕組みなど、価値観や課題、その裏にある感情を丁寧に紐解きながら、未来の社会に繋がるアイデアに議論が展開されました。

ここで出てきた、幾つかの興味深いアイデアを簡単にご紹介します。

  • 寝ている間に観たいコンテンツを記憶の世界で体験できる「眠put(ミンプット)」。寝ている時間を活用することで、1秒も無駄にせずに情報をインプットできる。
  • ドラマ等を自分の好みのストーリーにできる「みんなでシナリオ作るんDAO」。個々人の趣向にあった結末とすることで失敗を避けることができ、また情報を浴び続けることで主体的に自分で考えなくなっている個人が、創作の喜びを体感することができる。
  • 同じフィルター同士で集まっても新しいアイデアは生まれにくいため、フィルター化を逆手に取り、色々な考えの人を集めて議論する「逆フィルター」。
  • タイパは失敗したくない、失敗=無駄という心理から来ている。失敗を評価することで価値づけする「ナイトラ」。
    失敗をしてもナイストライのポイントが貯まりトライしやすくするサービス。
  • 自分の思考・趣向が社会の中のどのあたりにいるのかを可視化する「社会的GPS」。可視化することで、自分に足りない情報、自分とは異なる思考・趣向の人を見つけることができ、外側から自分を見つめなおすことができる。
  • ネットショッピングにて、購入履歴から「おすすめ」、「Noすすめ(おすすめではない商品)」、「すすめ!(未知の商品)」をレコメンドしてくれる「3つのススメ」。フィルター化により今までは知ることのなかった、自分とは対極にある、あるいは未知の情報を知ることができる。

ワークショップ後には、大判のアイデア整理シートに各テーブル内での議論と提案アイデアをまとめ、その成果を発表して参加者全員でシェア。ふんだんなイラストとキャッチーなフレーズで参加者の心を掴みます。
参加者全員による投票を行い、もっとも多く共感を集めたグループを「最優秀共感賞」、次点を「優秀共感賞」として表彰しました。賞に選ばれたグループのメンバーには、それぞれに日清食品「完全メシ 食生活お助けセット」を副賞としてお贈りしました。

今回のセコムオープンラボは、情報爆発の時代のなかで生まれた新しい価値観「フィルター化」「タイパ」をキーワードにニーズや活用方法だけでなく、普段感じている課題感や違和感などの非言語化メッセージを可視化し、共有することで、対話を深めていきました。全く異なる視座・価値観を持つ者同士の意見が交差することで、数多くの興味深いアイデアが次々と生み出され、参加者間で多くの気づきと新しい交流が生まれる場となりました。

ここで議論されたアイデアや、多種多様な視座からの未来像や課題感は、セコムを含め、参加者それぞれが持ち帰り、各々の視点から新たな“気づき・きっかけ”として活用いただけることと思います。この場を起点に、みなさまの想いが更に高まり、新たな創発が起きていくことを期待しています。

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