開催レポート
第15回:「マッピングが導く未来〜位置情報活用の光と影〜」

今回は、位置情報に応じたダイナミックな情報生成「ロケーションベースド」をテーマに、位置情報と地図情報による見える化のインパクトおよびその光と影についてアイデアディスカッションを開催しました。

個々人やモノの位置情報が群になって織りなす現実世界の見える化は、将来予測の重要な起点です。同時に、個人に対する情報のパーソナライズ化や情報のスマート化においても、常に変わり続ける位置情報はますます重要になってきました。若手世代を中心に位置共有が進み、検索エンジンでもMEO(地図エンジン最適化)が重視されるようになってきています。こういった位置情報を活用した「ロケーションベースド」に関するニーズ・価値提案が急速に進む一方で、ELSI(倫理的・法的・社会的課題)についても注意深く考える必要があります。位置情報やロケーションベースドの価値に纏わる光と影に焦点を当てながら、未来につながる新たな活用法を見出すのが狙いです。

話題提供では、パスコ執行役員経営戦略本部長の橘さんより、レジャー・スポーツ・ビジネスなど様々な分野での位置情報活用ケースと、そこで生まれる新たな価値と社会課題についてインプットいただきました。続くワークショップでは、多様な業種・業界で活躍する参加者が、それぞれの視点から「ロケーションベースドがもたらす新たな価値や不安」について互いの価値観を共有しながら分野横断的に対話を深めました。新たな価値を生み出す新機軸なサービスや、影の部分を解消する仕組みなど、価値観や課題の本質を紐解きながら、未来の社会に繋がるアイデアに議論が展開しました。

開催日時

2019年6月4日(火)

話題提供

  • 橘 克憲

    株式会社パスコ 執行役員 経営戦略本部長。
    一級建築士、防災士、被災建築物応急危険度判定士、ファシリティマネージャーの資格をもつ。
    株式会社パスコに入社後、都市計画基礎調査、総合計画、国土利用計画、都市計画マスタープラン策定業務等に携わる。在職中、米国オレゴン大学に留学し、公共政策・マネジメントを学ぶ。
    帰国後は、主にBtoB向けの地理情報システム(GIS)の開発や、マーケティング、防災等の大規模プロジェクトを指揮し、2016年からシステム事業部長。2019年から現職。
    日本防災産業会議 情報分科会 副幹事(2016年~2018年)、日本プロジェクト産業協議会(JAPIC)地域経営委員会 新たな地域産業構造構築部会 部会長(2017年~現在)、気象ビジネス推進コンソーシアム(気象庁)運営委員(2017年~現在)、足立区都市計画審議会 委員(2018年~現在)等も務める。

総合ファシリテーター

  • 沙魚川 久史

    セコムオープンラボ総合ファシリテーター。東京理科大学 総合研究院 客員准教授、国研 科学技術振興機構 専門委員、ものこと双発協議会 事務局長。
    セコムにて科学研究助成の事業責任者を経てコーポレート全般の企画業務に携わり、セコムのオープンイノベーションチームを率いる。イノベーション推進に向け「セコムオープンラボ」を主宰。東京大学イノベーションマネジメントスクール修了、東京理科大学大学院 総合科学技術経営研究科修了、同院イノベーション研究科修了。専門領域はサービスサイエンス・技術経営・知財マネジメントで、大学や国立研究開発法人、産学官コンソーシアムなどでも活動しながら公私にわたりサービス創造の視座より共創協働を推進している。

当日の模様

今回は、「マッピングが導く未来~位置情報活用の光と影~」と題して、情報通信、不動産、コンテンツを始めとした産業界や官庁の参加者約80名とともにアイデアディスカッションを開催しました。

モバイルネットワーク、スマートフォン、IoTデバイス等の発展とともに、様々な位置情報が取得できるようになりました。特に個々人やモノの位置情報は、時系列や集団として捉えることで「群」になります。「群」となって織りなす現実世界の見える化は、将来予測の重要な起点になると同時に、情報のパーソナライズ化やスマート化においても、常に変わり続けるユーザやモノの属性として益々重視されてきています。また、検索エンジンでも場所や地図の検索が増加してMEO(地図エンジン最適化)が重視されるようになり、若者世代を中心に位置共有が進むなど、位置情報に対するユーザの価値観も変わりつつあります。
位置情報を活用した「ロケーションベースド」に関するニーズ・価値提案が急速に進む一方で、位置情報は日々の生活に深く紐づいているが故に、ELSI(倫理的・法的・社会的課題)についても注意深く考えることが必要です。こういった位置情報の活用に纏わる光と影に焦点を当て、多様な価値観を取り入れながら、未来につながる新たな活用法を見出すのが今回の目的です。
イントロダクションでは、多様な視座によるコミュニケーションを重視した「セコムの“共想”」と、セコムオープンラボが持つ意味、オープンイノベーションによって結実した新たなサービスなどをご紹介。「位置情報」の活用を巡る幾つかの切り口と、今回のテーマに込めた背景についてフロアにインプットしました。
今回は、「マッピングが導く未来~位置情報活用の光と影~」というテーマにあわせ、パスコ執行役員経営戦略本部長の橘さんより話題提供をいただきました。位置情報ビジネスの変遷とそれを支える技術の発展、レジャー・スポーツ・ビジネスなど様々な分野での「ロケーションベースド」の活用事例やそこでの新しい価値などについて紹介がありました。また、位置情報を利活用するなかで生じ得る「ロケハラ」など、影の要素についても事例を含めて解説がありました。身近なケースからニッチなものまで、多種多様な文脈で活用される「ロケーションベースド」という切り口とそのエッセンスをインプットいただきました。
続くワークショップでは、45団体約80名の参加者が、11グループに分かれてそれぞれの視座からディスカッション。ワークタイムを細かく区切り、議題を変えながら、位置情報の活用とそれによる便益や安心感、課題について、様々な専門性により議論が展開されました。日々のお困りごとや、これから必要になってくる新たなニーズをもとにアイデアを提案しました。
ワークショップの前半戦は、位置情報に纏わる課題探索の時間帯です。位置情報に応じてダイナミックに情報を変化させる「ロケーションベースド」で生まれる少し先のニーズや期待、願望あるいは不安についてそれぞれの主観や想いといった視点から課題を掘り下げ、発散させながら議論を進めます。
位置情報サービスは既に欠かせないものになりつつある一方で、位置を開示することにはデリケートな部分もあります。いろいろな条件や願望をどうバランスさせることができるのか、フェイク情報や匿名化の是非、その背景にある感情や日ごろ感じるもやもや感などの非言語的メッセージを、多彩な切り口から可視化していきました。
今回の軽食には、キーワードの「地図・位置情報」に合わせて、「諸国漫遊」をコンセプトに全国のご当地駅弁と諸国銘菓をご用意。北海道から沖縄まで各地の特色溢れる名産品を思い思いに選んで、想像力を刺激しながら、コミュニケーションが進む場を演出しました。各地の特色に思いを巡らせながら、土地や位置について多角的な視点から捉えなおします。途中、コーヒーブレイクタイムには、参加者が大きく移動して他グループと交流し、更なる多様性を取り込みながら、マッシュアップを進めました。
コーヒーブレイクを挟んだ後のワークショップ後半戦では、前半で出てきた未来像や課題感を参考にしながら、グループ毎に位置情報を活用した新しいアイデアを提案。「ロケーションベースド」で新たな価値を生み出すサービスや、影の部分を解消する仕組みなど、価値観や課題、その裏にある感情を丁寧に紐解きながら、未来の社会に繋がるアイデアに議論が展開されました。
ここで出てきた、幾つかの興味深いアイデアを、簡単にですがご紹介します。
  • 周囲の人々の「喜怒哀楽」を可視化する「エモーションマップ」。「怒」「哀」の多い場所を避け、「喜」「楽」の多い場所を選んで行動することで、常にHAPPYな気持ちで過ごせる。
  • 空いている観光スポットや絶好の写真スポットなど、価値のある位置情報は時と人によって多種多様。穴場情報を売りたい人と買いたい人をマッチングするオークションサービス。
  • ご当地のお店を呼び寄せるサービス。リアルタイムでリクエストを受けとり、ニーズの多いところに移動しながら出店。混雑の一か所集中を解消すると同時に、どんなお店が来るのか“わくわく”感を生み出す。
  • 「位置情報」+「STORY」+「VR」。位置情報の記録から自分史を作成しVRで体験する、少しノスタルジックなアルバム。情報はデータベースに集約され、世界中で世代を問わず共有が可能。
  • 予定に合わせて毎日服装を選ぶのは大きな負担になる。もし合わない服を着て来てしまうと気まずい思いもしてしまう。予定先の位置の情報から、TPOに合わせて毎日の服をコーディネートしてくれる「朝の準備万端サービス」。
  • 自分と似た趣味や感性の人はどこを通って歩くのだろうか。属性情報と位置情報の履歴から、猫好きやカフェ好きなど似た属性の人がよく通る道(=けもの道)を発見し、個人の趣味・嗜好に合ったルートを提案する「けもの道ナビゲーション」。
ワークショップ後には、大判のアイデア整理シートに各テーブル内での議論と提案アイデアをまとめ、その成果を発表して参加者全員でシェア。ふんだんなイラストとキャッチーなフレーズで参加者の心を掴みます。
参加者全員による投票を行い、もっとも多く共感を集めたグループを「最優秀共感賞」、次点を「優秀共感賞」として表彰しました。賞に選ばれたグループのメンバーには、それぞれに「セコムの食」を副賞としてお贈りしました。
今回のセコムオープンラボは、その時その時で必要な情報を提案する「情報のスマート化」に向けて切り離すことのできない「位置情報/ロケーションベースド」をキーワードに、ニーズや活用方法だけでなく、普段感じている課題感や違和感などの非言語化メッセージを可視化し、共有することで、対話を深めていきました。全く異なる視座・価値観を持つ者同士の意見が交差することで、数多くの興味深いアイデアが次々と生み出され、参加者間で多くの気づきと新しい交流が生まれる場となりました。
ここで議論されたアイデアや、多種多様な視座からの未来像や課題感は、セコムを含め、参加者それぞれが持ち帰り、各々の視点から新たな“気づき・きっかけ”として活用いただけることと思います。この場を起点に、みなさまの想いが更に高まり、新たな創発が起きていくことを期待しています。

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