ホーム > ホームセキュリティ > 月水金フラッシュニュース > 月水金フラッシュニュース・バックナンバー > 「危なさ」を実感することが難しい理由とは
前回のコラムでは、言葉を使って人と人が意思疎通をするには、互いに、似たような経験や学習で身につけた共通認識(コードブック)が不可欠であることについて触れました。今回は、これをベースに「危なさ」を考えたり、伝えたりすることの難しさについて考えてみます。
・「梅干しの匂い」をイメージできますか?
皆さんは「梅干しの匂い」と言われたときに、その匂いを思い起こすことができるでしょうか。日本で、普通の生活をしている人間にとっては、梅干しの匂いをありありと思い起こすことはそんなに難しいことではないことでしょう。心の中の梅干しの匂いのイメージが、複数の人々の間で、大きくブレることもまずありません。
日本で生活するうえでは、梅干しの匂いを感じる(嗅ぐ)機会が多くあります。そのため、日本で暮らすほぼすべての人のなかに、梅干しの匂いを感じるという経験によって形作られた、共通の認識、コードブックがあるからです。そのため、日本では、梅干しの匂いという言葉(コード)によって、容易に「梅干しの匂い」そのものから得られる感覚を伝えることができます。
一方、いままで一度も「梅干しの匂い」を感じたことのない人間は、梅干しの匂いというコードから、梅干しの匂いそのもののありありとした匂いを、心の中に持つことができません。例えば酢のような、ピクルスのような匂いのように表現したとしても、それを伝えられた時に心に抱く匂いのイメージは、人それぞれバラバラとなることでしょう。
・未経験のコトは、なかなか実感を持てない
「梅干しの匂い」という例で考えましたが、このことは「危なさ」という感覚においてもそのまま当てはまります。
たとえば、現在の日本で普通の生活をしている場合、毒蛇に噛まれることで命が危険にさらされることを経験する機会はほとんど存在しないと言っても良いでしょう。そのため、私たちは、毒蛇が危ないというコードから、実際の毒蛇に噛まれて命が危険にさらされる状況を、ありありとはイメージできないのです。想像力を働かせてイメージを作ったとしても、そのイメージは人それぞれバラバラになるのが普通です。
・バージンバイアスと呼ばれる認識のズレ
これはリスク全般に関して言えることです。経験したことがないリスクに対して、人は不必要に大騒ぎしたり、逆に鈍感であったりすることがあることが知られており、バージンバイアスという名前がついています。
未経験の出来事については、その人の中に経験によって形作られたコードブックがありません。そのため、コトバというコードがあったとしても、そのコトバによって指し示された出来事を、実感を持ってイメージすることができないのです。未経験の物事に対するバージンバイアスは、言葉によってコミュニケーションや認識を行っている人間にとって、必然的に発生してしまうものであることがお分かりいただけるのではないかと思います。
・事故から日々の生活を守るために
現在の日本では、社会全体で防犯の努力を行っているため、実際に犯罪被害に遭う経験をしたことがある人は多くはありません。そのため、犯罪被害に遭うということが、どういうことか、どんなに嫌な気持ちになるかなどは、言葉の形にコードして考えたり、伝えたりすることが簡単ではないのです。
防犯、防災、そして新たな感染症への対応や、ネットを介した情報攻撃に対する防御など、「日々の生活におけるセキュリティ(広い意味での「ホームセキュリティ」)」を考えるうえにおいて、私たちは、未経験のことに対する認識のズレ(バージンバイアス)によるコミュニケーションエラーが生じがちであることに十分気をつけて対応しなければなりません。
バージンバイアスの影響をできるだけ小さくするためには、世の中で、日々どのような出来事が起こっているかに注意し、そのリスクが自分の身に降りかかった時に、どのようなことになるかについて考え、常に意識することが重要となってきます。生活におけるセキュリティのうえでは、今まで経験したことがない出来事に備えなくてはなりません。頻繁には起こらない事故から、平穏な日々の生活を守るために、バージンバイアスと呼ばれる「認識のズレ」があることに、ぜひ注意していただければと思います。
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