玄米で仕入れた米を、作業場で餅状にこねていく

−富士見堂では、これまでずっと生地からの煎餅作りを続けているのですか?

佐々木康祐さん:いや、実は「買い生地」にした時期もあったんです。私は煎餅屋のせがれとして生まれて、小さいころは煎餅作りを手伝わされてね。煎餅の生地は成型してから乾燥する工程があるんだけど、昔は煎餅の生地を乾燥させる機械なんてなかったから、外へ干していた。それは子どもの仕事だったんだよね。だから、遊びに行ってても、雨が降ったら大急ぎで帰ってきて、生地を中にしまわなくてはいけない。そんな風に一つ一つに今よりよっぽど手間をかけて作っていた。そして、自分が店を継いで、手間もコストもかけるよりも買い生地のほうが良いと思って作っていたんだけど、どうしても自分が親の仕事を手伝っていたころのような味にならなかったんだよ。

−自分が子どもの時に食べていたような味を求めていたんですね。

佐々木康祐さん:いい煎餅を作るには全部自分でやるしかない、と思ってね。それに、人に頼むと、どうしてもソロバンが先に立って、まずコストを考えてしまう。自分でやり出すとソロバンよりも職人として「おいしい煎餅を作ってやる」という意地のほうが先に立つんだよね。米はもちろん、醤油や胡麻などの材料もいいものを集めて、生地から作って、自分の親に試食してもらったんだ。そうしたら「なんだ、これは俺が作っていたのと同じ味じゃないか」ってね。

生地を成形していく。すべての工程で微調整する「技」を駆使し
「富士見堂の味」が作られている

−求めていた味を作っていたお父様にも認めてもらえたんですね。

佐々木康祐さん:やっぱりそうだ、自分で作らなきゃダメなんだ、って改めて決意した。うちは昔ながらの堅い煎餅をメインに作っているんだけど、今でも「やっと探していた堅い煎餅に出会えた」って言ってくれる人がいるんだ。このやり方でよかった、と本当にうれしくなるねえ。

−確かに、富士見堂のシンプルなお煎餅は、醤油とお米の風味がとても豊かで、懐かしい感じがします。

佐々木康祐さん:いい材料があれば、人の力なんてあまり必要ないんだよ。ほんのちょっとの手間を加えて、材料の味を引き出してあげればいいのだから。

−でも、年によってお米の出来も違いますよね・・・?

佐々木康祐さん:もちろん、年によってお米は全然違う。猛暑もあるし、冷害の時もある。それでも何とか、米問屋さんや契約農家さんの力を借りて、こちらが求めている栽培方法の一等米を仕入れさせてもらっているからね。毎年違うお米の状態や、季節ごとの温度や湿度に合わせて、水加減や火加減などすべての工程で微調整をして「富士見堂の味」がぶれないように作っている。そこはやっぱり長年培ってきた技術で自然の力に合わせていかないと。

「富士見堂の味は、いろいろな人の助けがあって守られている」という佐々木会長。煎餅の基本である生地だけでなく、いろいろな味のバリエーションとなる材料の一つ一つにも「富士見堂ならでは」を追求しています。